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透明人間のsushiのレビュー・感想・評価

透明人間(2019年製作の映画)
3.6
最初見終わったとき、エイドリアンが主人公を襲ったという明確な証拠が描かれないこと(つまり、最後まで彼が自白せずに犯行を否定したこと)にすごいモヤモヤしたんだけど、これは意図されたものなのだと思う。
現実の性被害では、実証することの難しさから被害者の妄想だと捉えられてしまう例もあるが、本作でも確証が得られないことから主人公の妄想と片付けられてしまうような物語の構造になっている。しかし実証できないからといって性被害は無かったといえるかというとそんなことはないわけで、なぜならホラー描写などによって観客は主人公と同じ視座に立つことで確信を持って性被害はあったと言えるのであり、観客の立場はラストのジェームズと同じになるからである。
私が当初感じたモヤモヤは、物理的証拠が無いとして被害者へセカンドレイプを行う第三者が抱く疑念であり、本作の恐ろしさはこのように観客を無自覚のうちに加害者の立場に陥らせる点にある。
透明人間の現実ではありえないような動きについてよく批判されているが、それは性被害を少し誇張して見せることで主人公の恐怖を観客と同調する機能を持つが、一方で先述した被害の"見えにくさ"に起因する疑念を起こす役割もある("あり得ない"挙動は文字通り現実では"あり得ない"のであり、主人公の妄想なのではないかという疑念。それは性被害の実証が難しいがゆえに生じる"見えにくさ"に通じる)。
しかしラストの主人公の清々しい顔をもう一度見れば、観客の抱く疑念はたちまち消滅して真実を直視することになる。
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