かるまるこ

透明人間のかるまるこのレビュー・感想・評価

透明人間(2019年製作の映画)
3.8
身体が透明だと心が見える。
身体が見えると心が見えなくなる。
身体は確かで、心は不確かなもの。
私達はついそう考えがちだが、実際は逆なのでは?とこの映画は思わせてくる。

前作『アップグレード』にもあった「何かに無理やり身体を操られる」的なワネル流の独特な身体表現&映像表現は今作も健在。

このところのワネルは「身体の不確かさ」をテーマしているようだ。

どちらも最先端技術が絡むことから見ても、現在の社会状況が念頭にあることは明らかだろう。
現代のコミュニケーションにおいて身体接触は必須ではない。
アフターコロナの世界ではさらにそれが進んでいくはずだ。
そんな社会の変化の速さに対応出来ないことへの恐怖を「何かに無理やり身体を操られる」ことを通して描いているのだと思う。

何より凄いのはそれを透明人間という使い古されたネタでやってのけたことだ。

吐息、床に粉を撒く、「妖怪布団はがし」からの執拗な掛け布団芸と、やってることは『パラノーマル・アクティビティ』とか心霊モノとほぼ変わらないのだが、それを透明人間に組み替えるだけでこれ程まで新味を感じるクオリティに仕上げてきたのはもう見事という他ない。

幽霊や悪魔みたいにいるかいないかわからない存在より、確実にそこにいるけど見えない存在の方がそりゃ怖いに決まってるし、車の窓ガラス素手で割る(透明人間の最初の証拠の伏線でもある)なんて確実にやべーヤツなんで、あとは何もない空間を映しておけば観客は勝手に怖がってくれる。

このやり口は本当に費用対効果抜群で、やりくり上手なデキる主婦みたいなその手腕にはもはや脱帽するしかない。映画界は慢性的なネタ不足なんだからもっとワネルに撮らせたら良いと思う。

欲を言えば、透明人間が姿を現して却って心の中が見えなくなってからの男女のヒリヒリするような駆け引きをもう少し見たかったのと、最後の「サプラ〜イズ」以降のシーンが若干蛇足なので、その前でスパンとぶった切って終わっても良かったかなと思う。
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