塔の上のカバンツェル

インディ・ジョーンズと運命のダイヤルの塔の上のカバンツェルのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

個人的には手堅さが美点の映画なのかなと思いました。
冒頭のナチのところとかは往年のジャンル的愉快さもあったりして、インディシリーズの同窓会映画としては懐かしい感覚もあって良かった。
突き抜けた面白さはないけど、堅実なエンタメとチラホラ楽しいポイントがある前半は、マンゴールド監督の画的にリッチな作りで好みだったなぁ〜と。

個人的にインディシリーズには、乗り物の上で戦うイズムがあると思うんだけども、
「レイダース」の駐機する軍用機の上、
「魔球の伝説」のトロッコバトル、
「最後の聖戦」のマークⅦ戦車、
「クリスタルスカル」のトラックでの戦い…など。
スピルバーグが好んで使うアクションメソッドの文脈もあると思うけど、本作では装甲列車の上での戦いをちゃんと抑えているあたり、要素をちゃんと脚本に組み込む造り手の手堅さみたいなのはやはり感じる。

まぁ自分が装甲列車というジャンルが大好きなのもあるけども。
今回の列車は、装甲というより武装化っていう表現が正しいですかね。
ドイツ空軍の対空機関砲、Flakvierling 38が武装=ヴァッフェンSSを薙ぎ倒していくところとかガジェット的な面白さもあったし。
操作しているのはちゃんとドイツ空軍兵でしたね。青の制服に赤の差し色が印象的な襟章。
インディシリーズのナチの描き方のユーモラスさみたいな伝統。

武装SSを率いる悪そうな将校役に俺たちのトーマス・クレッチマン!
相変わらずドイツ人将校役をやらせたら右に出る者はいませんね。
ここも堅実なキャスティング。

ナチがらみというか、今作の悪役マッツミケルセンの動機はちょっとモヤった。
モチーフは明らかにアメリカのアポロ計画を主導した元ドイツ人のフォン・ブラウンなのはそうなんだけど、
時空改変によるヒトラー暗殺計画って字面だけ聞くと、反ナチなのかな?って錯覚するし、「イングロリアルバスターズ」的なできんならヒトラーなんてやっちゃえよっていうエクストリームな展開も少しは期待してしまう。

多分ツイストの効いたキャラ造形を目指したのかもしれないけど、単純な権力闘争で片付けるには動機がちょっと解りずらくはなっている気がする。

ただ、マッツにナチの制服着せたら絶対カッコ良いじゃんね!っていうテンションには完全に同意せざるを得ない。

ローマ兵vsナチっていう「戦国自衛隊」的歴史オタのネタ展開は流石に笑った。
まぁ確かに誰しも一度は妄想するけども。

インディがラストの選択で歴史修正主義者に結構無邪気になっちゃいそうだったのは、ちょっと眉を顰めかけたけども、
人類の歴史に人生を掛けてきたインディが正に自分が夢にも描いてきた瞬間に立ち会えるというご褒美、
研究対象の究極の答え合わせが叶うというその時に大粒の涙を流す姿には、
個人的に一介の世界史オタクとしてもちょっと目頭が熱くなった。本当に。

それでも現実の世界、
考古学は最早学術界でも古い分野になりつつあり、
最先端を行くアポロ計画の3人の宇宙飛行士が持て囃され、一方では数十万の若き米兵がベトナムのジャンルで地上を這いつくばって戦っている、
息子が死んだ現実の世界に帰ってきたインディ。

冒険ロマンスで子供のように世界を駆け抜けたインディが、喪失感に満ちた現実に帰り、それでもマリオンと抱き合う姿というのは、やっと大人になれたのかもなぁ…この人は…などとしみじみと。

でもラストカットで茶目毛を忘れないのも含めて、マンゴールド監督の良い意味での手堅さが、美徳な映画だと思います。