柿トマト

インディ・ジョーンズと運命のダイヤルの柿トマトのレビュー・感想・評価

3.0
最後の作品にして一番地に足がついた作品

1作目『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』の登場以来、主演ハリソン・フォードの代名詞となったインディ・ジョーンズシリーズ。1作目から42年が経ち、前作より約15年ぶりの新作がようやっと公開された。

前作でも老人扱いだったのに、本作ではもう後期高齢者に浸かった年齢のインディが大冒険に繰り出す。今回のお宝は「アンティキティラのダイヤル」。かつてインディの友人・バジルが手にしてから、その人生を狂わせたといういわく付きのものだ。それをバジルの娘・ヘレナと元ナチスの研究者のフォラーが狙ってNYに現れるという物語になっている。

本作では今までの冒険活劇と違い「純粋」に楽しませてくれない。と言うのも、舞台となる1969年にはインディには何も残されていない。あれほど、大冒険を繰り広げてきたのに…である。熱狂されていた考古学の授業も生徒はただ単に単位を取るだけのものに成り下がった。アポロ計画が成功し全米がうねりを上げ、誰も考古学に見向きをしなくなってしまったのだ。月へのロケット=未来が、考古学=過去を蹂躙してしまった時代。インディが最後の冒険の舞台はそんなやるせないものから始まる。

それだけではない、前作では円満に解決した家庭も崩壊してしまい。老人が孤独に生活する様子など見ていて本当に辛くなる。インディ自身も今回の冒険にはあくまでも「巻き込まれた」だけの消極的で、そこに知的好奇心が見受けられないのが辛さに追い打ちをかける。

それ以外で言うと主要メンバー以外のキャラの雑な扱いも目立つ、「インディ・ジョーンズ」個人の物語にしたいのはわかるが、あんなもの見せられても冒険として楽しめない。あるシーンでヘレナがフォラーを出し抜いて大声で喜んでいたが、インディが諌めるのもよくわかるというものである。見た目こそ派手なアクションシーンの連続だが、どこか乗り切れないそんな映画になってしまった。

ここまで欠点を論ったが、ただ本作のラストは良かった。というか、このラストシーンを作りたいが故に、今まで観客を乗り気にさせなかったのではないかと思ってしまうほどだ。アメリカに蔓延している月への夢=未来に居場所はない、実は過去=考古学のロマンにも自分の居場所がないことが明らかとなってしまったインディ・ジョーンズ。最後の最後で、ある現実と向き合うことが示唆される。それと向き合って鳴り響くジョン・ウィリアムズの音楽。人生で一番地に足をつけた老人の最高の終わり方ではないか。
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