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インディ・ジョーンズと運命のダイヤルのsowhatのネタバレレビュー・内容・結末

2.0

このレビューはネタバレを含みます

【不死身にされて定期的に同じ格好で冒険をやらされ続ける呪いにかけられた男の悲劇】



世界を股にかけ、数々の冒険を繰り広げてきたインディー・ジョーンズ。
どんな素敵なじいさんになったのか。
親父(ショーン・コネリー)にも負けない、味のあるじいさんになったことだろう。
膨らんだ期待は、映画が始まると急速にしぼんでしまいます。

息子はベトナム戦争で戦死。
妻は悲嘆に暮れて夫婦関係は破綻し家を出てしまい、現在離婚協議中。
大学は定年退職。
隣家のパーティーの騒音が気になりバットを持って怒鳴り込む老害。
酒でウサを晴らすしかない、陰気で不機嫌で孤独な冴えないおっさん。

そんなおっさんが殺人事件の容疑者として全国に指名手配された上に、こっそり隠していたお宝を奪われてしまいます。
彼はまたもや冒険に駆り出され、あちこち駆け回り、海にも潜り、派手な音楽に乗って何度も何度も危機一髪をくぐり抜け、謎を解き、無事お宝をゲットします。
でも、そこには爽快さもユーモアも感じられませんでした。
年を取ったことがギャグにならず、ただただ辛そうなだけ。
「背骨は軋むし…」とか自虐的なセリフを言いますが、笑えないし、見ていて哀れを感じさせます。
軽口を叩く余裕もありません。
年老いた彼は、若かりし頃と同じことを同じ格好でやらされているだけで、なんの目新しさもありません。
不良娘のヘレンにも同情され、介護される始末。
もうどうか彼をそっとしておいて上げてほしい。
観ていて切なくなりました。

彼は神を冒涜した罪で「不死身にされて定期的に同じ格好で冒険をやらされ続ける呪い」にでもかかっているのではないでしょうか。
親父にも確か、「神様をバカにしちゃいかん!」って怒られてたし。
過去に飛んで行った彼は、「もうおれはここにいる。現代には帰らない!」とダダを捏ねます。
そりゃそうだろう、と心のなかでつぶやいてしまいました。
だって、帰ったらまた新たな「冒険」が待っているんだから…。
どんなに年を取って体の自由が利かなくなっても、何度でも「冒険」に行かされるんだから…。

いろいろツッコミどころの多い本作ですが、インディーと妻マリオンの夫婦関係についてはかなり不可解です。
息子の戦死という悲劇に直面したら、普通の夫婦であれば、お互い支え合いながら生きていくのではないでしょうか。
詳細な理由は語られませんが、マリオンは夫を残し家を出て行ってしまい、残されたインディーは独居老人に。
本作の最後では、なぜかマリオンは家に戻ってきています。
彼女の行動は、果たしてどんな意味があるのでしょうか。
あるいは、マリオンとヘレンはどこかで繋がっているのでしょうか。

うがった見方かも知れませんが、「一人では生きていけない」ことをマリオンは夫に分からせたかったのでは。
それを心の底から理解し、改心したインディーは、まるで彼女に跪かんばかりにキスを繰り返します。
彼に尻尾があったら勢いよく振っていたことでしょう。
どちらが飼い主であるかを分からせるための懲罰、放置プレイ。
よく、夫の横暴に長年耐え続けた妻が、夫が年を取り弱ってからじわじわと仕返しをするという話を耳にします。
二人の様子を観ながら、そんな話を思い出しました。

これまで男性の冒険と活躍を描いてきたこのシリーズ。
本作は、おおげさに言えば「男性」という性の終焉を陰に示唆しているようにも感じました。
あるいは楽天的で男性的なアメリカの終焉、と言えるかも知れません。
「年を取って萎びていく男性 VS 自立していつまでも輝き続ける女性」という構図が、本作にも当てはまります。
もはやアクション映画にも男性の居場所はなくなっているのかも。
次回作はヘレンが主役でインディの出番はなさそうです…。
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