てつこてつ

インビテーション/不吉な招待状のてつこてつのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

あれ、皆さん、結構、この作品への評価が厳しめですね・・

個人的には、身近に潜むカルト信者の狂気を、決して大袈裟にではなくリアルに描かれていて、スリラー作品としては、かなり秀逸な出来だと思う。

幽霊、悪魔、モンスターなんかよりも、やはり、人間が一番怖い。しかも、当の本人には、信仰心という歪でいながらも強固な正義感しか抱いていないから余計に始末が悪い。「ミッドサマー」「リバース」等、カルト教団の狂気を描いた作品は、結構、精神的に来るものがある。

二年前に最愛の幼い息子を事故で亡くし、悲嘆のあまり離婚してしまった一組の夫婦。ある日、新しいパートナーを持ちながらも未だにトラウマが消えていない主人公の元に、別れた妻からパーティーへの招待状が届けられる。ロサンゼルス郊外の山麓にある、今は向こうも新しいパートナーと同棲している元妻の瀟洒な邸宅を訪れると、そこには3年ぶりに再会する大学時代の仲良しグループの面々に加え、主催者夫婦の友人だと称する見知らぬ二人が出迎える。

元妻の様子が明らかにおかしい。まるで息子の存在を忘れてしまったかのように狂気じみた満面の笑顔。彼女の新しいパートナーである男性も、目ヂカラが強く、淡々とした口調で、自分たちが妄信するカルトがいかに平和的な物であるのかを語りながら、一人の若い癌患者が教祖に見守られながら永眠するビデオを、唐突にパーティーの参加者たちの前で上映する。

ストーリーの冒頭から、久しぶりに再会する親友たちの笑顔と、まだ息子の事故を引きずっている主人公の暗い表情のズレから、不気味な不協和音が生まれ、ヒシヒシとした静かな恐怖が伝わってくる。

このパーティーは、自分をカルトに引きずり込むための奸計なのか?果たして、誰がカルト信者で、誰がそうでないのか?友人たちが浮かべる楽しげな笑顔の裏側の真意が全く読めない。これは、単なる自分の思い違いだろうかとも思いあぐねる主人公・・

登場するキャラクターが、誰一人挙げても、ロサンゼルス界隈では確かにどこにでもいそうなエリート層のアジア人の夫妻であったり、イケメンのゲイカップルだったりとリアルだし、彼らのセリフも、常識と非常識の微妙な狭間を行ったり来たりして視聴者側にも不安感や疑念を生ませ、脚本が絶妙に上手い。また、演じる役者陣も表情の演技がとても自然。

終盤になって、やはり、主催者夫婦とその二人の知人がカルト信者で、親友たちを巻き込んでの集団自殺を図るために開かれたパーティーである事が発覚する下りも、とても自然な流れで描かれているため、いきなり激しい暴力描写やスプラッター展開になるわけでもなく(何故ならば、信者たちは、本来、平和主義者であり、自分たちと親友たちの安らかな眠りを求めているため、決して皆を苦しめるつもりは毛頭無いので)、作品の前半同様の淡々たるペースで逃げ惑う友人たちを次々と殺そうと追い回す。施錠されて邸宅からは屋外に脱出できず家の中に隠れるしかない生き残った人々の描写を、もう少しサスペンスフルに描かれていれば、怖さと同時にホラーサスペンスの質が上がったと思うので、そこは惜しいところ。

かつては愛した夫を殺しきれず、信仰に救いを求めながらも、やはり実は亡くした愛息を諦めきれずにいた元妻の最後に見せる表情、ホラーサスペンスの予定調和に従わず、主人公カップルの他にも生き残らせる人間が存在するエンディングなど、これもまたリアリティがあっていい。

これでもか~!!という流血描写ありありのスプラッター映画よりも、やはり、自分は、この作品のように脚本がしっかりしたリアリティある作品のほうが、同じホラー・サスペンスの括りの中でも余程好みです。
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