Eike

インビテーション/不吉な招待状のEikeのレビュー・感想・評価

4.0
※分かりにくいストーリーではないので本作に関しては事前に予告編は見ない事をお勧めします。
これはちょっとレビュアー泣かせな作品ですが私は大変、気に入りました。

ロサンゼルス。主人公のウィルは恋人のキーラと二人、山手の高級住宅地区へ車を走らせています。
向かう先はかつての我が家。
彼と彼の元妻、イーデンはその家でまだ幼い息子を事故で亡くすという不幸に見舞われました。
そのことがきっかけで結婚生活は破たん。
離婚したウィルは家を出て、イーデンは失踪。
そして2年の時間が経ち、ウィルの元にかつての家に戻ってきたイーデンから丁重なパーティの招待状が届いたのです。
家にはすでにウィルとイーデンのかつての友人たちが集っており、久しぶりの再会に沸いております。
イーデンの傍らには彼女がメキシコで出合ったという再婚相手のデビッドと彼らの新しい友人、セイディーという女性が。
ウィルはイーデンの回復を喜ぶのですが彼自身の傷はまだ完全には癒えておらず
思い出の詰まったかつての我が家に足を踏み入れたことで気持ちが乱れ始めます。
それでも旧友たちとの再会で気持ちの整理をつけようと努力をするのですが華やかなパーティの最中、ふと違和感を覚えます。
そして彼自身にもうまく説明できないその奇妙な気配は次第にその影を濃くしてゆく...。

ご覧になる方にはこれ以上の知識は持たずに鑑賞することをお勧めします。
本作がある種のサスペンス映画であることは指摘してもネタバレには当たらないと思います。
ただし、そのスタイルは好き嫌い・賛否が分かれるかもしれません。

結構なお屋敷(日本からすれば豪邸ですがアメリカ的には中流の上といったところ)に集まった約10人の登場人物たちの交流が延々と描写されるだけと言って差し支えない前半の展開にじれったくなるのも無理もない(それも狙いなんでしょうが)。
ポツポツとサスペンスの種が散りばめられているのですがその見せ方は至ってサラリと流した自然なタッチになっております。
その上でのクライマックスの展開は意外といえば、まぁそうなんですがひっくり返るほどショッキングなものではない気も…。
実際、その点で期待外れと言う批判も、見受けられます。

ただ、本作の見応えは意外なオチやどんでん返し部分から生まれているのではないことは明らか。
あくまでも見どころはそこに至るまでの課程にあり。
登場人物のほとんどは名前も知らない役者さんたちで、それが逆にリアルさを生んでいる辺りにはアメリカ映画の底力が見て取れます。
特に主人公のウィルを演じたLogan Marshall-Greenの微妙な心理描写は嘘くさく無くて説得力があって見応えがあります。

舞台がLAの高級住宅街であることにもちゃんと意味がある。
それぞれに成功者と思わしき登場人物たちが己の内に抱える不安や不確実で先を見通せない世界を前にしてもがいている様が透けて見えてくる後半。
その不安と苦悩がラストの展開に収束されていて唐突とも思える事の真相に一定の真実味を与えているようにも思えました。
これ、ある日突然どこかで起きても可笑しくないのでは…。

注目株の監督キャリン・クサマ、色気を出してエンタメ要素を増量せずに物語を構築したのはえらい。
結果的に地味で静かな印象の映画となった訳ですが役者の微妙なニュアンスに満ちた演技と飾らないながらも巧みな演出でキリキリと張りつめてゆく緊張感をきっちりと見どころに仕立て上げています。
主人公が察知した微妙な違和感、それが華やかなパーティの中で次第に薄気味悪い何かに変容してゆく様をきちんと提示できている辺りはサスペンス映画の醍醐味に満ちております。

ラストのLAの夜景の美しさには戦慄すら覚えました。
Eike

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