YasujiOshiba

地中海のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

地中海(2015年製作の映画)
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英語版DVD。23-136。ようやくキャッチアップ。英語の字幕がありがたい。フランス語、英語、アラビア語、そしてイタリア語が飛び交う。

昨日、マッテオ・ガッローネの『Io capitano』がヴェネツィア映画祭の最優秀監督賞を取ったニュースに、おもわず積読状態の円盤を引っ張り出した。きっかけが大事なんだよね。

さて、ジョナス・カルピニャーノは最初に見た『チャンブラにて』のイメージが強烈だった。この作品は、ぼくにとってその前日譚。登場人物も重なっている。ブルキナ・ファソ共和国から来た移民のクドゥ・セイオン(Koudous Seihon)は、この映画ではアイーヴァ(Ayiva)の役名で、アルジェからリビアにわたりイタリアへと至る自らの旅を再現。

『チャンブラにて』で主役を演じた、カラブリア州のジョイア・タウロに済むロマ人の少年ピオ・アマートも、さらに若くなって登場。なるほど、カルピンニャーロ監督が彼ともう一本撮りたくなるのもわかる、そんな存在感。

アフリカからの移民がどんなに苦労して入ってきて、どうやって定着してゆくのかを追うわけだけど、前半は揺れの激しい手持ちカメラで、画面を絞って、かなり暗い中での撮影が続く。ときどき、ぱっと視界が広がると砂漠だったり、そこから追い剥ぎ(!)が現れたり。細かい説明はない。最低限のカットで繋いでゆく。だからテンポがある。

カラーブリアに入ってからテンポが変わる。同じ移民仲間と落ちあい、テントで床に紙を敷いた上で寝るという最低限からのスタート。寒くて震えるアイーヴァ。朝、鉄道を見る。特急が止まる駅。なんと列車に乗り込むのだが、何をするかと思えば、善良な老紳士の旅行鞄を持ち帰っている。

けれどもアイーヴァは泥棒にはならない。盗んだセーターで暖をとり、MP3プレイヤーを売る。そういえば砂漠でも靴を売っていいた。商売をして、真面目に働くのだ。場所はオレンジ農園。ブルキナ・ファソに妻と娘を残してきた。だから「ブルキナ」(高潔な人)は「ファソ」(祖国)を思いながら真面目に働く。

こうして農園の主人に見込まれ、食卓にも招かれる。契約労働者になりたいというアイーヴァ。滞在許可証をとり合法的な移民として家族を呼びたいという。農場主は理解を示す。祖母のニューヨークでの移民体験を知っているからだ。

ここで今移民状態のアイーヴァは、かつての移民だった祖先を持つカラブリア人からの共鳴を得る。助け合うのが大事だという言葉は思い。しかし同時に、カラブリアの人々には移民を忌み嫌う者たちもいる。

だから衝突が起こる。移民を嫌う連中の顔がアイーヴァの脳裏に刻まれる。そしてその顔が、農場主のパーティに現れるのだ。親友を打ちのめしたその男たちの顔は、パーティの華やかな光のかかに消えてゆく。それまで外でワインのサーブをしていたアイーヴァも、農場主に一緒に中で楽しもうと誘われる。

華やかにキラキラしているその場所の前で、アイーヴァは迷う。おそらく、その直前にスカイプで顔を見て話した妻と娘の感謝の言葉を思い出していたんだ。お金を送ってくれてありがとう。娘へのプレゼントをありがとう。

次の瞬間、光の中にアイーヴァの姿が消えてゆく。見事なラストシーン。それは同時に、みごとな『チャンブラにて』のオープニングなのだ。
YasujiOshiba

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