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皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグのydcd0074のレビュー・感想・評価

4.3
偶然スーパーパワーを手に入れたチンケな犯罪者が、「無垢」なヒロインとの触れ合いを通じて、正義の心に目覚めていく。

そうまとめると、ハリウッドのスーパーヒーロー映画の典型なのであるが、まるでテイストが違う。ヨーロッパの淀んだ感じ、行き詰まり感がすごい。

登場人物はみな空虚であるし、どこにも行き場所がなく、行きたい場所すらないだろう(大金を手に入れても、欲しいものすらない)。『ジョーカー』と比べても、どうしようもない感じはこちらの方が強く感じる。

題名の通り『鋼鉄ジーグ』がモチーフなのだけど、アメコミモチーフの映画のように、神話というか、正であれ負であれ希望のようなものは感じられない。それにすがることで何かが打開されることはないのだ。ヒーローもヒロインもヴィランも、社会や世界に繋がっていない。アメリカ映画であれば、孤独なヒーローを無理矢理世界に接続させるのこそ、ヴィランの役割なのだけど、この映画では敵役は初期衝動だけあって、自分と周囲を蚕食していくだけの昆虫めいた人間なので、それも多くは望めない。
だから、彼は「英雄」にも「親愛なる隣人」にも「ダークナイト」にもなれないままなのだ。

この先、主人公は、ほんの束の間のヒロインとともに過ごしたときの「お前といると楽しい」という気持ちの、その思い出の微かな光だけに照らされて、この先の人生を生きていくしかないのだろう。
もうどこにも救いがなくて、そもそも救われる可能性なんて、誰にもなかったのだ。
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