せいか

Viva!公務員/公務員はどこへ行く?/オレはどこへ行く?のせいかのネタバレレビュー・内容・結末

2.0

このレビューはネタバレを含みます

09/29、AmazonPrimeにて視聴。字幕版。
主人公がドが付くクズなのとひたすらイタリアの駄目なところを皮肉る目的でそれと悪魔合体しているので最初はどうしたもんかと思いながら観ることになるが、最終的に主人公の成長話としてまとめられているので、鑑賞直後はそこまで嫌な気分を引きずることはない。コメディー。イタリア、そのへんいい話聞いたことないもんな……と、ひたすらグロテスクなほどに皮肉られてる対象のもろもろが出るたびに脳裏に過ぎることになる。

タイトルについては以下を引用する。
「『Viva! 公務員』は、イタリア映画祭2016で上映されたときは原題の「Quo vado?」に忠実に『オレはどこへ行く?』でした。このタイトルはラテン語の「Quo vadis, Domine?」というフレーズを連想させます。これは、ローマのネロの迫害を逃れてきたペトロの言葉「主よ何処に行かれるですか?」をもじったもので、公務員削減の犠牲なって数々の苦難に会う主人公が、「ぼくはどこに行くのだろう?」と言っているように聞こえるわけです。」(参考「『Viva! 公務員』を楽しむためのセミナー「イタリア映画で笑うために」のご報告」https://www.google.com/amp/s/www.aigtokyo.or.jp/%3fp=27183&amp=1)

原題にもそれが言い含められているように、本作では、終身雇用で安定した職で安寧も貪れる正規の公務員になることを幼い頃から夢とし、代々そうしてきたようにコネも使って無事それを職とした男が、しかし、国の方針転換の煽りを受けて暗黙裡に辞職に追い込まれんとする過程の中であちこちへと異動を繰り返すことになるがそれでも公務員にしがみつき続けて……という話である。
公務員としての仕事との向き合い方は怠惰そのもので、他にも、イタリア仕込という汚職などの汚いことも進んでやるし、差別意識や生活態度なども最悪で、それが慣習だからということで考えることをやめて強者の立場からゆとりを持って生きている。要は、繰り返すが、ドが付くクズなやつなのである。作中でエゴイストだとか、自分のことしか考えないとか、(安寧と定めた)居場所に執着するとか言われるしその通りだが、それだけには収まらないきたねー煮凝りみたいなやつ、それが彼だ。
とはいえ怠惰のうちに異動先の僻地を次々と謳歌して過ごすポテンシャルはすごい。

そんな彼も北極で出会った女性といい感じになったことをきっかけに、彼女と一緒にいるということを徐々に自分の世界の中に取り込んでいき、一度は彼女の故郷の北欧的な現代の文化に染まろうとすることで(つまりイタリアから目をそらすことで)サイテーな自分から脱しようとはするが、呪いのように結局、イタリアに囚われ、サイテーな自分に逆戻りする。
だけれどもなんやかんやあって公務員であることを選んで彼女に見限られるも、彼自身は元鞘の部署に戻ることができてハッピーな気分にはなるも、自分には自由が欠けていると悟り、しかも彼女との間に子供ができていたことを知ったことで彼は背中を押される形で彼にとってのこの獄から脱し、公務員も辞め、南アフリカで彼女の助手として活動していくことを選んだのだった。
……という、まあそういうハッピーエンドである。結局、家族とか、特に子供かい、それが人間を一人前にするんかいという気分にはなるが、まあ、ハッピーエンドである。
怠惰に生きてきた彼がその報いとしてさまようことになり、その行き着く先がそうした自分の今の執着の元を断つことができたという意味での前進となるわけで、良かったねという話である。

あと、主人公が公務員としては駄目でかなりの怠惰なやつなだけで、何気に僻地で重宝される技能を持っていたり、応用がきいたりとか、自分勝手さはあるが結果的にどこででもやっていける強さはあったり、別に誰かに憎まれるというわけでもなかったりとか、割と最強なのだよな。特出した技能や知識もないし、多分そんなに頭も良くないけど、環境や運には恵まれてるというか。イタリアの大学制度って日本から見ると特殊なのだけど、どういう進学をしてるのかはやや気にはなるが。

そんなわけでコメディーとしてはだいぶブラックユーモアの類で、とにかくレッテル的な何かへの印象とか、誤った慣行に従順に従うことへの皮肉だとか、優位的な立場にあることに甘えて平気で他を踏みにじって生きることへの皮肉だとか、そういったものをひたすら描いている作品である。

元鞘に戻ってこられたときにいきなり主人公が歌い出すイタリア共和国ソングがこれもブラックユーモアながらなかなか好きである。

ずっと(主に)イタリアの嫌なところを見せてくる映画ではあるんどけど、なんか最終的に、でもいいよな、イタリア……みたいな気持ちでエンディングを迎えることになる、イタリアへの愛も詰まっている作品だった。

正規公務員がどうのとか(これは少し留意すべき点はあるが)、主人公がそう評されている意味でのエゴイストさとか、割と作中の皮肉自体は日本と重ねてアンニュイになるところもあって、それでもカラッとした雰囲気になれるところがイタリアなんだろうなとも思った。あんまり絶望感や虚無感が深々と根ざしてはいないというか。多分、現実的にはもっとそういう意味では日本と近しくなるところもあるのだろうとも思うけれど(もちろん、なんでもかんでも重ねて見ているわけてはないが)。

追記
最終的に発展途上国としてのアフリカで活動することみたいなところで落としてるところはなんかちょっとモヤるような気もするが、
ブラックユーモアで刺しまくりつつ本編はあくまでライトなコメディーに仕立てているし、イタリアを皮肉りつつも愛してるのが伝わってもくるという、心地よい陽のシニカルを込めた作品になっているのがすごいと思う。この点において本作を私は評価している。
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