柳之貓

愚行録の柳之貓のレビュー・感想・評価

愚行録(2017年製作の映画)
2.4
『凶悪』みたいなノンフィクションかと思って先入観無しで観たが、振り返れば何とも無理やりな感じがあってどうかと思った。創作でこれなら何とも言い難い。
出てくる真相に、おっ?と思わせられる箇所は幾つかあるも、よくよく考えたら、嘘くさかった。

全編に渡って陰鬱で、不幸がガンガン詰め込まれているのだが、それぞれの繋がりが見事なクセに、関係の必然性が乏しいので、それ要る?って部分がいくつもあった。
特に序盤から丁寧に描かれる田向のサイコっぷりは、カットしても話に影響しないって残念さ加減。せいぜい、ざまぁ!って思わせられる程度か?

バブル設定の必要性も感じられなかった。作者の乏しい想像力だけに頼って、それっぽいものを描いた感が、全般に見える。
各事象の細部を描写し、それを意味有りげに繋ぎ合わせて、運命のいたずら、みたいなものを構築したのかも知れないが、人物描写が表面的過ぎて、物語の構造や展開に納得がいかない。
序盤で言えば、田向の同僚が一年経っても泣くほどってのが理解できん。つーか表面的付き合いどころか、裏で軽蔑してたレベルじゃないか?
同大で面識なし→入社で意気投合→NTR程度の仲は、酒入っても泣かないだろう。

その他の釈然としない部分…(若干ネタバレ)
赤ん坊大好きな妹がなんであんな新聞沙汰になる事件を起こしてるのか?母親が16歳で〜の下りで反面教師にしてる風なのに、自分はそれより何歳も上なのに、もっと最悪な事になってる点。あと子を持ったに至る必然性。大学で自暴自棄になったとしても、人生のハンドルをあんな風に正反対に切るってあり得ない。猛勉強して野心に溢れてた割には悪手過ぎる。そもそも、それまで本筋に関係っぽかった妹が大学に出てきた時点で、大体の先が読めたのは構造的な問題。そのシーンの事件も非現実的。あの二人が全く同じような勘違いを何故したのか?そもそも、あんな妹が大学に入れたってのが、そもそも信じられなかった。
カフェのラストも、トリガーが釈然としない。「節操が無い」だと思ってたが、恐らくは真相に近づいてたからだろう。なら吸い殻の件は用意周到過ぎる。あのカフェには何回通ってるんだろう。普通は一回だけじゃないか?時系列順なら三回も会ってるのだろうか?一記者から仕事場で何回もっていい迷惑でしょう。服装の違いとかあったかは覚えてないが、どちらにせよ問題だ。各人への取材を挟むため、時系列が掴みにくい。あと、あの二人が貶められたのなら、記事読んで連絡してきた女が無事なのはおかしい。
そもそも、記者が真相に気付くポイントが明確に描かれてないのも変。いつの間にかそうなってる。視聴者が気付いた後は、一番の関心事はそこなのに。

吸い殻で言うと、彼が拾ったのにも違和感を感じていた。場を持たせるためのカメラワーク都合かと思ったが、意味があったのなら、彼にそれをさせる動機をもっと明確にすべき。ジャージ着たスポーツ大好きマン風ってだけじゃピンと来ない。
田向の結婚に至る経緯が読めないのも問題が大きい。一番相手に選ばない、野心しか持ってない似た者同士じゃないか。こんな二人は惹かれ合わない、猟師と獲物の関係性が成り立たないから。そしてあんなに丁寧に描いたクズの二人が、結局、計画性の薄い衝動殺人でやられてるなら、それまでの流れ要る?になる。
…と、言い出したらキリが無い。
名刺をコースターにする無礼さ、スタッフにパワハラ紛いのカフェ店長、赤ん坊に手をのばす記者、妹が耳を触るシーンなど、意図が明確に読めない意味有りげなカットも多々あったな。

良かった箇所を挙げれば、妹の独白カットだが、それすらも『花とアリス』の鈴木杏ほど凄まじくはない。
あと「彼女が美人だったのが不幸だった」ってセリフも主観では違和感を感じた。満島ひかりはあどけない風に描かれてたので、美人度では、後のカフェ店長や昇級アテンドさんに負けてた。「カワイイけど垢抜けてなくてつけ込まれた」ならまだ納得がいったが。

作者はパリピな奴らにルサンチマンでもあって、露悪的に描いてるのかなぁって気がした。
柳之貓

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