果糖

つぶれかかった右眼のためにの果糖のレビュー・感想・評価

4.0
「だったらなぜわざわざ個人映画とか実験映画とか言う必要があるのか、ただの映画でいいじゃないかと言う人がいます。ひと頃の学園祭や学生主催の映画講演会などで、私はよく口裏を合わせたようにそんな噛みつき方をされたものでした。ある会場には「選別と排除の思考を打破せよ」という張り紙が提示されていたところもあり、私はあらためて蓮實重彦の影響力の強さに軽い嫉妬すら覚えたものです。しかしそれらの学生諸君と話していて、ほとんど例外なく私が奇妙に思ったのは、彼らが蓮實理論の核心とも言うべき部分、たとえば「時間意識と方向感覚への執着をも放棄し」、「それ自体としての「差異」を生きること」が「いま、ここという時空に、「映画」と呼ばれる未知でも既知でもない負の陥没地帯をかたちづくり、「映画」であったもの、ありつつあるもの、あるであろうところのものを隔てる境界線を無効にしてゆく」という命題にはいささかも眼もくれず、選別と排除の思考が、必然的に制度や権威を容認することにつながるというお題目を、ハンコで押したように理屈抜きに繰り返す仕草でした。」

松本俊夫『逸脱の映像 拡張・変容・実験精神』
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