笹井ヨシキ

エル ELLEの笹井ヨシキのネタバレレビュー・内容・結末

エル ELLE(2016年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

ポール・バーホーベン監督最新作ということで鑑賞して参りました。

見る前何となく上品で敷居の高いヨーロッパ映画っぽい作品をイメージしていたのですが、実際は緊張の中にとぼけた余裕のあるテイストが同居している作品で単純にとても楽しかったです!

まず何といってもイザベル・ユペールが素晴らしいですね!
一見すると理解できないミシェルというキャラクターを最小限の動作で絶妙に表現しきっていて「こういう人は実在する!」と思わしてくれる抜群の存在感がありました!

ミシェルという人物のすごく特異なところは、レイプされても全く動じなかったり、職場で部下からの嫌がらせを受けても恐怖を感じない事を自らの強さとして認識しているのではなく、「そんなのは当然のこと」として特別視していないところだと思うんですよね。

冒頭のレイプ後の片付けシーンも、「レイプされた」のではなく「ちょっと面倒なことが起きた」くらいにしか思っておらず淡々としています。シャワーでレイプされた体を「洗い流す」のではなく、湯舟に浸かり経血に染まった泡を眺める一連のシークエンスはとてもユーモラスで、彼女が「異常者」でも「強い女」でもなく、「自分の事は自分で処理したいタイプの社会的に自立した女性」であるとシンプルに描写できていて、違和感なく映画に入り込めました。

これ多分バーホーベン監督以外の普通の監督だったら「レイプされても女性の気丈さ」みたな部分を前面に押し出しそうなもんですけど、今作のミシェルは「気丈でもなんでもなくそんなことは当たり前」と捉えている点が面白くて、彼女がどんな受難にあっても精神的なスーパーヒーロー性で突き返していくから不思議とカタルシスがあって痛快なんですよね。

バカな男の傍若無人には1ミリもエモーションを動かされない、それは女性の強さではなく当然の事である、という監督の爛熟した女性賛歌に抜けの良さがあってとても面白かったです。

そのバカな男の傍若無人もヒドすぎて笑えましたw
特に息子のヴァンサンが終盤に炸裂させる度を超えた根性無しっぷりと、ミシェルをバカにしたゲームのムービーをばら撒いた犯人が言い放つ「報酬はもらえる?」はクズすぎて爆笑してしまいましたw
彼らの土俵に乗らず、颯爽と対処するミシェルは素直に超カッコよかったです!

バーホーベン監督作品特有の「創造物の暴力性」というモチーフが映画に奥行を与えているのも見逃せません。
悪趣味なゲームムービーにオルガスムスのリアリティを追及し続けるよう指示した結果、ミシェル自身がその中に取り込まれてしまうという展開はいかにもバーホーベンっぽいなと思ったし、当事者意識を無視して物語化した報道をするワイドショーの悪質さを描いているのも興味深かったですね。
特に後者はミシェルが周りと同調せず生きるようになった一要因を示すヒントにもなっており、物語の影響力の強さをいつも考え続けてきたバーホーベン特有の世界観だと思いました。

あと隣人のイケメン(実はレイプ犯)でマスをかいているとクリスマスツリーのライトが点くギャグとか、中盤の自損事故シーンが冒頭のレイプシーンの対応と呼応しあっている巧な演出とか、母親の遺灰を息子とケンカしたイライラで超適当に撒くところとか、シリアスな中にユーモラスなシーンがたくさんあり、単純に好きでした!

今作は気軽に感情移入や共感ができる作品ではありませんが、ミシェルという人物が確かに存在する感触があって彼女の人生を疑似体験できる傑作だと思います。

感情移入や共感ができなくとも覗き見感覚で他人の人生に入り込むドキュメンタリックなタイプの映画好きにはたまらない作品でした!
笹井ヨシキ

笹井ヨシキ