わたべ

オクジャ okjaのわたべのレビュー・感想・評価

オクジャ okja(2017年製作の映画)
4.2
山に住む少女ミジャ(アン・ソヒョン)と遺伝子操作された食用豚オクジャのお話。
この豚は作内では“スーパー・ピッグ”と言われているのだけれど、ただサイズがデカい豚というわけではなく、カバとか象とかジュゴン(?)とか他のいくつかの哺乳類生物も混ざったような外見をしていて、現実世界に似た動物は思いあたらない。けれど、多くの哺乳類生物がそうであるように頭が良く愛情深い。

映画はいわば韓国編とNY編とハッキリ別れている。前半にあたる韓国編はコメディ色が強くなんとなくジブリ映画っぽいドタバタ感があり、後半のNY編はシリアスさを増し、グローバルなフード・カンパニー“ミランド”のCEO ルーシー(ティルダ・スウィントン)、ジェイ(ポール・ダノ)率いる動物愛護団体“ALF”、など各々の登場人物の思惑と主張がぶつかり合いながら進んでいく。

メッセージ性も皮肉も問題提起も盛り込みつつ、説教くさくならないエンタメ感、テンポ感、コメディ感に調整されていて、たいへん見応えのある作品になっている。

この作品のポイントは多国籍食品企業ミランドも資本主義社会を生き抜く姿勢として間違ってはいない、ということにある。食料危機の時代に安価で美味な食品を消費者に提供する、というのはむしろ正しいことですらあるかもしれない。(遺伝子操作の件を偽っているのは別の大きな問題だけど)

ミジャの「10年一緒に暮らした家族と別れたくない。食肉にするなんてもってのほか」という愛情を元にした主張は素朴で感情移入しやすい。
けれども、なんというか日頃から文明社会を生き、資本主義企業の恩恵を受け、おまけにNetflixという超便利な視聴スタイルでこの作品を観る以上、自分達は簡単にミジャの側に立っていいのか、とも自問してしまう。彼女は食料を山や川から調達し、壊れかけたテレビをひっぱたきながら視聴するような、グローバルな資本主義(この場合、食品産業やエンタメ産業だ)とは無縁な生活をしているがゆえに、多国籍企業と対立する権利を得ているというふうにも見える。そこにこそ、この『オクジャ』という作品の一筋縄でいかなさがあり、解決もまた強烈だ。

まあ、Netflixに加入している人は間違いなく観るべきだろう。そうでなくても1ヶ月の無料期間をこの作品のために使うというのも充分アリな選択。
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