シンタロー

しゃぼん玉のシンタローのレビュー・感想・評価

しゃぼん玉(2016年製作の映画)
4.2
直木賞作家・乃南アサの同名小説の映画化。
親の愛情を知らずに育った伊豆見は、女性や老人を狙った通り魔や強盗傷害を繰り返していた。逃亡中にトラックから突き落とされ、宮崎県椎葉村で夜中の山中に迷ってしまう。明け方、原付バイクで転倒し、怪我をした老婆スマを助けたことで、彼女の家に泊めてもらうことに。はじめは金を盗んで逃げるつもりだったが、伊豆見をスマの孫だと勘違いした村民たちに世話を焼かれ、隣の集落のシゲ爺に山仕事や祭りの準備を手伝わされるようになり…。
スマ役に市原悦子をキャスティングしたのは意図があったのでしょうか。舞台は日本三大秘境の一つで、多くの神話が残る宮崎県椎葉村。まるで日本昔ばなしの世界のような、雄大な自然と透き通った空気に囲まれたロケーションには圧倒されてしまいます。そこへ異物のように現れる心が荒んだ孤独な青年。スマは伊豆見が家中を物色しているのを目撃しますが、何も聞かず、咎めることもしません。スマもシゲ爺も、伊豆見に後ろ暗い過去がある事を薄々感じながら、そっと見守り続けます。彼らの存在と雄大な自然、心のこもった手料理によって、伊豆見の心の闇や狂気が静かに癒えていく様子が素晴らしいです。諦めていた人生をやり直したい。これからが、これまでを変えていく、奇跡のような再生の物語。
端正な容姿でありながら、このような低予算映画で、やさぐれた役を小汚く駄目駄目に演じられるところが林遣都の凄みだと私的には思っています。どんな作品でも、しっかり役作りされていることが伝わってきます。"自由なんかじゃねぇよ。帰る場所がねぇだけだよ"からの、最後の展開には泣いてしまいました。観る側の想像に委ねるラストシーンも良かったです。市原悦子は本作が映画遺作となりました。この方にしか表現出来ない役柄だったと思います。"坊はええ子じゃ"からの頭クシャクシャ…これは市原悦子と林遣都にしか演れなかった世界観だと思います。秦基博の主題歌も心に染みます。
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