明石です

マスターズ・オブ・ホラー 恐1グランプリ ダンス・オブ・ザ・デッド/ヘッケルの死霊の明石ですのレビュー・感想・評価

4.3
トビー・フーパーとジョン・マクマノートンが競作したTVシリーズ『マスターズ・オブ・ホラー』の円盤化。死者の蘇生を共通テーマに2人が競いあったオムニバス映画で、両作品ともに気合の入った力作でした。


第1部:ダンスオブザデッド/トビー・フーパー

大都市が戦争で壊滅し、生き残った者たちが細々と暮らす世紀末風の町で、死体に電気を流してダンスを踊らせるショーが流行していた!!『激突』のリチャード・マシスンの息子(同名のリチャード・マシスン)の脚本をもとにトビーフーパーが監督した作品。主演は彼の映画ではおなじみのロバート・イングランド。

ドラッグでトリップしたような感じに輪郭の乱れた酩酊感満載の不安定な映像に、スローや早回し等を絡めながら、明滅する照明の下(いつものフーパー節だ)で、死者に電気ショックを与えてダンスさせるという文字通りショッキングな映像を乗せる悪趣味さがイイ!!序盤からイメージの洪水のようなパワフルな演出の目白押しで、1時間の尺を圧倒的なテンションで押し切る後年のフーパー節炸裂なバイタリティに驚く。

フーパー自身が語って曰く、ダイナミズムを大事にしていて、色々な物を細部に至るまで撮影し、細かく繋いで見せた。今作では1つのショットが2秒以上続かないようにした。全てのショットに心から満足しているとのこと。前作『死体安置室』でもそうでしたが、複数のショットをジャンプカット的に繋いで疾走感を出す演出、ゼロ年代以降のフーパーは特にお好みな気がする。本作のこの1時間の短尺なのに見終わった後どっと疲れる映像表現は、彼の信念に根ざしたものだったと考えると、この疲れにも意味があったのかなと思う。しかし疲れたぜ、、2時間半の映画を見た気分笑。

道ゆく老夫婦が銃で脅され血液を抜かれる超世紀末な世界を仕切るのは名優ロバート・イングランド。フレディ・クルーガーのイメージで元々ヤバい人という印象はたっぷりあるけど、『悪魔の沼』しかり『マングラー』しかり、フーパーの映画に出てる時のこの人は他作品の5倍くらいエクストリームな狂人に見える笑。しかもそれを底抜けに楽しそうに演じてるのだからタマゲタものです。死体に電気ショックを流してヒャッヒャッヒャと笑う彼の残像が頭から離れない、、

ドラッグでトリップしつつオープンカーを乗り回し、全身に風を浴びて叫びながらウルトラ暴力を求めて夜の街を駆け回る感じ、なんだか『時計じかけのオレンジ』みたいな世界観だなと思ってたら、まさかの終盤に、ロバート・イングランドの手下らしき男たちが白服に山高帽にサスペンダーという、時計じかけのアレックスそのままスタイルで登場。絶対意識してる!!フーパーの映画オタクらしい趣味が出たのかな笑。

体のキレイな女性の死体ばかりを集め、ステージ上で電気ショックを与えて見せ物にするという悪趣味なショーを観戦していた17歳の女の子が、そこでトンデモナイものを目にして発狂!という鬱々たるラストにフルスロットルで向かってく本作、シナリオのアイデアとしてシンプルなだけに、この独特すぎる世界観に入り込めるかどうかが肝だと思う。私としては、、そこそこに入り込めたという感じでした。そこそこに!!

ひとつ気になったのは、後年のフーパー作品には同情の余地なしのお馬鹿すぎる若者が必ず出てくるのだけど、これはなんなんだろね。パンクやデスメタルを聴いて、おへそピアスをして、公共の場で卑猥な話をして子作りに励むみたいな、絵に描いたようなキワモノたち笑。フーパー自身がそういう方々を好きなわけでもないだろうに。80年代のスラッシャー映画さながら、こういう人たちは殺されます、という図式化された構図がやや気になる。殺される側を阿呆に描きすぎて話の筋がミエミエなのも、殺される人たちに全く感情移入できないのも困る、、何より本作では、こんな頭の悪そうな人たちにホイホイついていく主人公にも全く同情できなかったし、、その点は少し残念ですね。世界観が凝ってただけに、もう少し登場人物にも工夫を、、てな感じ。例えば本作がオマージュを捧げてる『時計じかけ』のアレックスは、仲間(ドルーグだっけ)と一緒にあれだけ破天荒なことをやっておきながら、部屋に1人でいる時は、ベートーベンを聴くのが史上の喜び!みたいな、ちょっとした品格を隠し持ってるところに抗しがたい魅力があったように思う。そんな風に、登場人物の単調なイメージを覆すような何かがあれば、この映画への見方も変わった気がする。


第2部:ヘッケルの幽霊/ジョン・マクマノートン

亡くなった妻を生き返らせたいとの願いを胸にネクロマンサー(死者再生者)のもとを訪ねた男が、「ヘッケルの幽霊」という、死者の蘇生を夢見た科学者の恐怖体験を聞かされるお話。殺人鬼の日常をドキュメンタリックに綴った超悪趣味映画『ヘンリー』で名を上げ、スコセッシに起用されて『恋に落ちたら』(これもいい映画だった、、)を監督した器用な男マクマノートンの小品。しかもヘルレイザーの生みの親クライヴ・バーカー原作とのことで、期待を大にして見た。

黙示録的な近未来を描いたフーパーの作品とは対照的に、西洋世界がまだ神の大いなる力の下にあった時代が舞台の本作。科学で死体を蘇らせせようと目論む医学生(ハーバートウェストではない)と、黒魔術によってそれを成し遂げようとするアヤシイ男という、凝ってはいるけど分かりやすい対立構造に惹かれる。それに南北戦争前後の時代が舞台とのことで、凝った衣装やセットのおかげもあって、世界観にすんなり入り込めたのも◎。主要テーマが死者蘇生という非現実的なモノなだけに、周縁をあんまりゴチャゴチャいじらないことは大事だなと、この2作を比べて思った笑。

手のひらに乗った蜘蛛を見つめながら「生」、その手を閉じて蜘蛛を潰し「死」と呟く文学作品っぽい描写に、文芸モノの匂いを嗅ぎ取り大興奮!!そして「死んだ者は二度と死なない」とお洒落にのたまう黒魔術師に、墓場から蘇った死者と交わる裸の美女。しかもそれは夜の間だけの宴で、太陽が昇ったら全ては元通りというクライヴ・バーカーの作品らしいおどろおどろしい映像美と超ミディアンな設定に惹かれる。私がバーカーの世界観を好きなだけかもですが、それにしても時代物とダークファンジーってけっこう合うなあ。

極めつけは、ネクロマンサーの寝物語「ヘッケルの幽霊」に出てきた幽霊()たちが最後にゾロゾロと出てきて、え、あなたが〇〇だったの!!というオチ、、素敵!!クレーンショットで家全体を映してエンドロールに繋げるラストも旨いし、それから「体は戻るけど、魂は戻らない」という作中の台詞は、死者蘇生モノに共通するテーマだなあと考えさせられる。(『死霊のしたたり』も『ペットセメタリー』もそうだったはず)。普段はフーパー贔屓の私ですが、このオムニバスに関しては、マクマノートンの技アリな演出とバーカー由来の世界観に大いにハマれたので、こちらに軍配ですね。フーパーのは映像の主張が凄すぎた笑。
明石です

明石です