MasaichiYaguchi

さとにきたらええやんのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

さとにきたらええやん(2016年製作の映画)
4.0
あれはダメ、これもダメと、社会で「NO」ばかりが増えてきたこの頃だが、大阪市西成区釜ヶ崎“日雇い労働者の街”で38年に亘り、子どもたちの遊びと学び、生活の場として運営されている「こどもの里」をドキュメントした本作では、「YES」と肯定するところから物事がスタートしているように思う。
今年、「保育園落ちた日本死ね」と書かれた匿名のブログが話題となって国会でも取り上げられたが、今の日本には子どもや小さな子どもを持つ親の“居場所”が無いと思う。
本作で取り上げられた「こどもの里」は正にそういった子や親の“オアシス”だ。
“さと”と呼ばれるこの場所の利用手引きが紹介されるが、その大らかさ、間口の広さ、懐の深さに驚いてしまう。
子どもの遊びと学び、生活の場でもあるここの利用は無料であり、国籍も問われないし、親も育児相談や生活相談が出来る。
そして、“さと”を利用する子どもたちと日雇い労働者を含めた地域を繋ぐ役割さえ果たしている。
だから、“さと”には様々な子どもや大人たちが集う。
普通の子が学校帰りに遊びに立ち寄ったり、共稼ぎや母子家庭で子どもを預ける親もいる。
このドキュメンタリーでは3組の母子をクローズアップして描いていて、3組共、家庭に問題があったり、子どもが障害を抱えていたりする。
そんな環境の子どもたちだが、彼らの目や表情は前向きで、明るく澄んでいる。
本作は大阪区西成区釜ヶ崎を舞台にしているが、ここでドキュメントされた内容は日本のそこら中で起こっている問題だと思う。
お金の豊かさを求める現代は負のスパイラルしか生まないが、心の豊かさ、地域での人との温もりを見出そうとする人々を描く本作では、希望の連鎖が生まれているような気がする。
社会のしわ寄せが行き易い子どもを巡る問題に対し、この作品は解決のヒントを我々に投げ掛けていると思う。