takuji

マンチェスター・バイ・ザ・シーのtakujiのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

どうしてオスカー作品賞獲れなかったのかな。
「ラ・ラ・ランド」よりも「ムーンライト」よりもいい。ぐっときた。

マンチェスター・バイ・ザ・シーというのはマサチューセッツ州にある町の名前で、この作品の舞台。ボストンから50kmちょっと。海辺の美しい町。人口は5,000人ちょっとだとか。

ケイシー・アフレックがいい。
何を考えてるかわからない表情。というよりずっと目が死んでて表情がない。とても難しい役だと思うけど、素晴らしかった。

「乗り越えられない」というのがテーマだろうか。
よくある人や家族の再生の話ではない。再生の手前で止まっている人たちの話。

元々乗り越えられないものを抱えて悶々と過ごしていたリーが、兄の死と甥っ子の後見人就任というショックな出来事に直面する。兄とは仲が良かったし甥のパトリックのことも好きなのでなんとかしたいともがくけども・・・。
甥のパトリックは16歳。多感な年頃。ガールフレンドが2人いて、学校でバンドをやってて、アイスホッケーやバスケもやってる今時のコ。リー叔父さんが後見人になるのは構わないけど、この町を離れるのは絶対イヤ。
叔父さんへの配慮は皆無。
でもパトリックも大変だった。父の死をまだ受け入れていなかった。気を紛らわせるためか、父親が死んだのにガールフレンドとセックスしたり、バンドの練習をやったり。無邪気で自己中。これは年齢的に無理もないかも。
冷凍庫のチキンを見て、霊安室で凍っていた父親の遺体を思い出し、やっと父の死という現実にふれる。自分の心の問題に気づいたわけだ。ずっとパニックだったのかもしれない。

パトリックに振り回されつつリーはこの問題を何とか解決しようと奔走する。ただ、リーはこの町で暮らすわけにはいかない。この町には住めない。

火事のあとの事情聴取がつらい。聴取を担当した警察官たちがリーに同情的なのもつらい。そして、そのまま釈放されたのがいちばんつらい。
罪に問うてほしい、逮捕して起訴して死刑にしてほしい。このまま釈放なんてつらすぎる。生きていられない。

腫れ物にふれるようにリーに接する町の人たち。
小さな町、誰もが自分たちを知っている。自分が誰の息子か、誰の弟か。
ここにはいられない。

ただ、マンチェスター・バイ・ザ・シーから50kmしか離れてないボストンに暮らしていたのはやはり兄たちと離れたくなかったからか、遠くに行くことを兄が許さなかったからか。

元妻のランディは乗り越えようとしている?少なくとも前に進んでいるように見える。リーを赦し、救おうとする心のゆとりができている。再婚し、子どもができたからかな。

兄の元妻の心理描写がリアルだ。複雑な変化を描いている。彼女も自分のしでかした過去を乗り越えられない人だ。このままギクシャクした人生を送っていくのか。宗教は彼女を救ってくれるか。

乗り越えられないという話なのでハッピーエンドではない。
リーはパトリックの後見人にはならず、ボストンに帰ることを決めた。
パトリックはそれが不満ながら、それを正面からリーにぶつけられない。ボストンでパトリックのためにひと部屋用意しとくよ、というリーの提案に素直に応じられない。
真正面から言いたいことをあまり言わないまま、お互いを受け入れ、それぞれの道を歩もうとするところで映画は終わる。

リーはボストンでの独り暮らしに戻って、過去を乗り越えられるのか?

小さな町だけど、リーの周囲にはいい人が多くて、ホッとさせられる。
それと、観ていてつらい映画だけど、笑えるところもちょっとあって。
パトリックがやってるバンドが超ヘタクソ(笑)。
パトリックとガールフレンドのサンディがセックスにこぎつけるまでのやり取りや、明るくてちょっと間の抜けたサンディの母親がおかしい。
私はサンディよりシルヴィがいいな。いろいろ気を遣ってくれるし、おっぱいがロケットみたいだし。

とてもいい映画です。
主演がマット・デイモンじゃなくてケイシー・アフレックでよかったです。どっちつかずの表情がいいんです。
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