曇天

マンチェスター・バイ・ザ・シーの曇天のレビュー・感想・評価

4.0
この映画、なぜだかよく失敗するシーンが出てくる。
車のカギを落としたり車の駐車場所を忘れたり間違えて車を急発進させたり、医者の名を呼び間違え、大勢いる中で意思疎通ができず、甥の彼女に気持を察しろと指摘され、お葬式中に携帯は鳴っちゃうし、ストレッチャーを救急車に乗せるだけで苦労し、自殺すらし損ねる。それもこれも一番起こしちゃいけなかった失敗への暗示なのか。人生のままならなさの縮図か。いやでも、関係ない所で甥が何度もセックスし損ねてるから単なるスパイスなのか。

物事がなにもかもどうでもよくていつもイラついててすぐ暴発する。実の兄とはまた違った鬱顔のケイシー・アフレックに合った配役。暴れて取り押さえられるシーンがこれみよがしに何度も出てくるのも可笑しい。

映画の中では「残された船」といったら残りわずかな男のプライドの象徴であり、「家庭崩壊」はダメな父親が改心するための前フリだし、「独り者の男」には新しいロマンスがつきもの。だけどそういった映画的舞台装置をあんまり処理することなく時間が過ぎていく。それがリアルだとも言えるけど、それ以上にある種の諦念を帯びていて、そういった映画的舞台装置は現実ではなんの慰めにもならないと言われている気がする。

観れば観るほどこれは改心の映画以上に和解の映画だった。冬が終わり、兄の遺体を埋葬できるようになった頃には、確かな雪解けを感じることができた。
一方で、精神を病んだ主人公と彼以外の大人達との間には大きな溝があって、腫れ物に触るような態度に悶々とする。どこか「抜け」ていた人間がさらに面倒な問題を抱えた際に、適切なプロトコルを知らない周囲の人々が取るようなよそよそしさだ。だがそれらも至極普通の現実であって、結局は家族で身を寄せ合うしかないということが消極的選択として提示してあって頭が下がる。単なる家族愛映画とは切実さが違う。
愚か者に愛を。ラ・ラ・ランドと同じです。
曇天

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