アラサーちゃん

マンチェスター・バイ・ザ・シーのアラサーちゃんのレビュー・感想・評価

4.0
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〖マンチェスター・バイ・ザ・シー〗
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ひびの入ったガラスみたいな映画。
好きすぎて、胸が苦しい。
暗くて切ないのに、爽やかなヒューマンドラマ。
年の瀬にとっても大事にしたい作品に出会いました。

お互いに傷ついた心を、舐め合い方も知らずに慰め合っているのが、愛おしくて切ない。

サンディとセックスしたいのに最後までできない。アパートの便利屋なのに住人と仲良くできない。救急車のストレッチャーが畳めない。お互いをどう慰めていいのかわからない。
上手くいかないことだらけの不器用さが、物語の核心をつつく。
それらはちぐはぐなりにも、丁寧に、繊細に、ひとつひとつの断片が紡がれて、あったかくてかけがえのないそれができる。

ケイシー・アフレックのあらゆるシーンでの表情がどれも印象的で、はっとさせられた。
最後のボール持って歩くところ、それってリーが街に戻ってきた頃の機械人間のようなままでは絶対目にもとめなかったのだろうなって思ったら、パトリックがアイスを買うのを待ちながらそれを手にしたリーに心からほっとした。

冒頭のリーと幼いパトリックの船上でのシークエンス、終盤でリーと父の友人とのシークエンスで、無駄に思えるようなたわいない話を盛り込んでくるところが秀逸だ。一見どうでもいい会話だけど、この物語に大きな意味を残してくれる。
リーの酒癖の悪さをいちいち印象づけるのも、つくり手のうまさだなと感じる。それが悪行として描かれるたびに、観客にもリーへの同情と非難という混乱に巻き込まれていく。

ところどころ静音でBGMベースでシーンを流す演出は好きではない。
でも、ストレッチャーのくだりも、サンディのお母さんのくだりも、ドラムの子も、笑いをふっかけてくるあの絶妙な笑いの温度加減、すき♡ いいね。

一つ疑問だったのは、ジョーの病気に関してべセニー医師から説明を受けるシーンで、なぜああいう構図だったのかということ。考えても分からない。あのおかげでパトリックの母親のキャラクターはしっかり理解できるけど、そのためだけの意図とは思えないんだけどな。

弁護士事務所で回想するシーンがとにかく泣けた。二回目見返して泣いた。部屋の隅々に飾られた幸せな家庭の欠片が目に焼き付いて切なくなる。

冷凍されたままみたいなリーの心も、いつかちゃんと解ける日が来るといいな。