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マンチェスター・バイ・ザ・シーのjun2kmのレビュー・感想・評価

4.1
美しい町、マンチェスター・バイ・ザ・シー。柔らかな波音が何もかも包み込んでくれる。大人になるまで住んでた神戸市の海沿いの町を思い出しました。防波堤の向こう側は運河と大きな船着場があって、波止場の係船柱の横に座って父親と釣りをしてたっけ。私の父はどんなことを考えてたんやろか。
映画は、ケイシー・アフレックさん演じる主人公の不機嫌な日常を描いていきます。心に壁を持ち、酒場で無茶苦茶な喧嘩をする。こんな友達は欲しくないけど、いい奴かも知れない。それは彼の眼に吸いこまれたから。こんな侘しくて美しい眼を持つ人がいるんや。遠くしか見えてない冷めた色をしてて、危険なのに優しい眼。完全に主人公の眼をつくりだしています。自分の過去に心の一部を置いたまま歩き続けて、何か遠くにあるものを見つけようとするけど、何も見つけられない…。
フラッシュバックがふんだんに使われてます。映像にも登場人物の心にも。男性と出会いアル中から立ち直りかけた女性。でも、昔、置き去りにした自分の息子と出会って再び心の平静が失われていく。主人公も、この海辺の町に帰ってくることで、少しずつ心の壁を乗り越えるきっかけを掴みかける。そんなとき、かつての妻と出会い、乗り越えようとした壁から落ちてしまう。再び、理不尽に酒場で喧嘩をしてしまう主人公。彼らはいつまでフラッシュバックにとらわれながら、歩き続けないとあかんのやろ。
最後、主人公は甥と船の上から釣りをします。2本並んだ竿。マンチェスターの波音が、彼の心を包み込んでいってくれる。
エンドロールを見たあなたには、どんな風景が浮かんできましたか。誰かと語り合いたいですね。静かに、優しく、柔らかに。海辺の町のように。
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