かわさき

ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命のかわさきのレビュー・感想・評価

3.6

 アントニーナ(ジェシカ・チャスティン)の普通の人っぷりがつらかった。たとえそれがノンフィクションであろうとも、この凡人性までスクリーンに映した映画は稀だと思う。しかしだからこそ、その凡人性を徹底してほしかった。

 アントニーナは慈愛に溢れ、多くの人から愛される人格者だ。ナチスから迫害されるユダヤ人を300人も救ったわけだから、当然英雄であってしかるべきである。けれども、彼女は特段賢いわけでも、超常的な力を持つわけでも、運が良いわけでもなかった。勇気ある「普通の人」である。ノンフィクションとは言え、ここまで誠実に主人公の凡庸を描いた作品は少ないだろう。(フィクションではむしろ極端に知性に乏しい人物になりがちだ。ex.『街のあかり』)

 が、この凡人性を最後まで活かしてほしかった。アントニーナたちが救った300人は、なぜその300人だったのか?ごく少数の人物を除き、その理由が省略されている。よもや無作為とは思えず、僕はそこに作られた聖人性を見い出してしまった。もちろんアントニーナの勇気は非凡である。しかしそれは先述の凡人性に裏打ちされた勇気である。だから尚更、この300人がどういうドラマがあってこの300人だったのかは描くべきだった。

 そこを除けば、本作は大胆さすら感じるほどリアルである。先ほどから述べている通り、この映画は勇気ある「普通の女性」の物語だ。ゲットーでナチスの迫害を受ける人々も、アントニーナの家族も、あるいはナチス側の人間だってかつては普通だったかもしれない。我々はそんな凡人性に絶望し、嫌悪し、けれども希望を見い出すのだ。
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