うめ

あしたのパスタはアルデンテのうめのレビュー・感想・評価

3.7
 ちょっと気分を明るくしたい、そんな思いで久々の鑑賞。やっぱりイタリアの陽気な雰囲気に、歴史ある建物や街…素敵です。これらが映るだけでも、イタリア映画を観る楽しみがある。今作はそれにプラスして、コメディ要素とドラマ性を盛り込んだ作品。

 主人公で次男のトンマーゾは南イタリアの古都レッチェで老舗パスタ会社を営む父親に、長男アントニオの社長就任パーティーで集まった家族の前で、ゲイであることを打ち明けようとする。しかし、その事をトンマーゾから聞いていたアントニオが先にゲイだと打ち明けて家を出てしまう。打ち明けづらくなったトンマーゾは共同経営者の娘アルバと会社を運営していくのだが…という冒頭からとても込み入ったストーリー(笑)だが、原題"Mine vaganti"(「(何をしでかすか分からない)危険人物」「(いつ爆発するか分からない)浮遊機雷」の意味)とあるように、家族一人一人が個性あるキャラクター…いや、何をしでかすか分からないキャラクターなので、何が起こるのか展開が気になってしまう。それと同時にとても濃いキャラクターなのだが、人間味に溢れている人物ばかりなので、観ていて面白い(笑)

 あと気になる点と言えば、やはり同性愛者に対する態度だろうか。父親だけでなく、(アントニオがゲイであると噂が広まった)街の人々までも家族を笑い者にする。イタリアでは同性愛者への理解がまだまだ進んでいないのだろうか。それとも田舎の街ぐらいだとやはり偏見が根強いのだろうか。よく内情はわからないが、私は監督の意図が反映された故の描写なのではないかなと思った。フェルザン・オズペテク監督はトルコ出身だがイタリアで映画技術を学んだ監督。監督自身がゲイあることをカミングアウトしており、これまでの作品でもそういったテーマを扱っている。今回も(コメディの要素としてだけではなく)同性愛者に対する偏見の目をやや大げさに描いただけなのではないだろうか。

 キャストに関しては、文句なし。イタリアの人気俳優リッカルド・スカマルチョを主役に据え、『シチリア!シチリア!』にも出演していたニコール・グリマウドがアルバ役で出演している。なんと言っても、お祖母ちゃん役のイラリア・オッキーニが良かった。序盤はあまり語らず表情で訴え、トンマーゾに的確な助言をし、そして終盤…あのシーンは悲しくもあり、美しかった。(その他のシーンでも、女性が強くエレガントなシーンが多く、その辺りも見どころかなと思った。)

 『あしたのパスタはアルデンテ』って少し不思議なタイトルだが(笑)、邦題としては頑張ってつけたほうだと思う。「明日、天気になぁれ」っていうのと同じ。アルデンテになぁれっていう願いと期待が込められているのだろう。

 ただ家族が一気に登場するので、観る人によっては少し人間関係を把握するのに時間を要するかもしれない。そのような方は公式サイトに関係図が記載されているので、そちらを確認の上、観るといいかもしれない。あとはイタリア語とイタリアの古都の雰囲気を楽しみながら、気楽に観るといいと思う。

 あ、今年日本で公開された『カプチーノはお熱いうちに』もフェルザン・オズぺテク監督なんですよね。しかもまたもや舞台は古都レッチェ(笑)今作観たら、観るのがますます楽しみになりました。
うめ

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