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ウインド・リバーのKuutaのレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
4.0
私が見た劇場クーラー効き過ぎで、身も心も震えながら見ていました。シンプルですが重厚や良作でした。

アメリカの歴史と制度の隙間にある辺境の地。法に頼れないからこそ、現代まで自警団的な西部劇の構造が残っている。インディアンの父親がコリー(ジェレミー・レナー)に抱きつく場面で落涙。

「なぜ、この土地(ウインド・リバー)では少女ばかりが殺されるのか」。連邦政府の土地だからFBIが出てくるが、捜査権限の違いから、レイプ事件が捜査されないエアポケットに入っていることが分かる。逆に言えば、そんな状態だからこそ感情論的な制裁が許容されている。警察官が足りない故、山の中の遺体も見つからないし、事件にもならない(今作のポスターが象徴するように)。この状況に鉄槌を下せるのは、土地の雪が覆い隠そうとする血や足跡を辿り、ピューマの駆除を請け負ってくれるハンターしかいなかった。

退役軍人マットとナタリー(=米国のために奉仕してきた2人)が夢想する希望は、冒頭の詩とも繋がっている。ジェーン(エリザベス・オルセン)は終始外側の人間であり続けたが、地元のワニの区別はつく。コニーの救済と、ジェーンがウインドリバーへの理解を深める展開を並行させる脚本が上手い。「ネイティブアメリカンは伝統すら奪われた」という描写にハッとさせられるが、様々な“弱者”が押し込められる地獄の中で、運命から見放されようとも、生きる意思には明確な差があることが明らかになる。開拓者と先住民の関係をめぐる告発であると同時に、苦難を受け入れていかに生きるか、という普遍的なテーマも描いている。世界と戦うのではなく、感情と向き合うべきだと。

静と動、緊張感の持続と解放、アクションシーンの切れ味が素晴らしい。最初の狩猟シーンからビックリした(この構図が終盤の銃撃戦の位置関係と重なるのが流石)。犯行シーンのあまりの醜悪さ、話が一本の線に繋がった瞬間起こる“爆発”も強烈。

新米警官とフロンティアの組み合わせはやはりボーダーラインを連想した。コリーの娘の安否は序盤から散々匂わせていたので(ジェーンが服を借りた時の空気感等)、中盤の説明ははっきりし過ぎな印象。個人的には「許されざる者」のイーストウッドくらいのテンションで見ていたので、コリーがわりと喋るのがしっくりこなかった。

コリーは魚類野生生物局職員としての仕事をしただけ、という見方もできるし、先住民の過去の苦難エピソードをアレコレ入れないなど、抑えた話運びではあるものの、結局テーマの大半をコリーの台詞でカバーする形になっているのがややもったいない。

エンドロールにワインスタインの名前があるのが皮肉なオチ。80点。
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