むーしゅ

ウインド・リバーのむーしゅのレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
4.1
 「ボーダーライン」の脚本家Taylor Sheridanの監督デビュー作にして、第70回カンヌ国際映画祭にて"ある視点"部門の監督賞を受賞した作品。あれTaylor Sheridanって今まで監督していなかったっけ?と思い調べてみると、クレジット上は「BOUND9」というホラー映画の監督となっており、実質は2作目。そしてどうやら同じ点をRotten Tomatoesのインタビュアーが突っ込んだようで、それに対し"あの作品は友人を助けただけで監督をしたわけでは無い"と回答したとのこと。ならクレジットの段階で言えばいいのに、と謎の不信感です。

 ウィンド・リバー先住民保留地でFWS(合衆国魚類野生生物局)の職員として働くランバートは、雪が積もる荒野の中に殺害された少女の死体を発見。FBIは殺人事件の調査のために新米捜査官バナーを派遣するが、覚束ない調査にしびれを切らしたランバートは協力することにし、2人での調査を開始するのだが・・・という話。ストーリーは大きく異なりますが、雪・殺人事件・田舎ときたらやっぱり「ファーゴ」ですね。「ウィンド・リバー」という地名をタイトルにしているところも近いです。しかし「ファーゴ」系かと侮っていると、かなり強めのパンチを顔面に浴びたような衝撃に驚きますし、あまりの重さに言葉を失います。

 本作のテーマは「ネイティブアメリカンの現状と闇」。日本では琉球民族やアイヌ民族等は特別な権利を持っていませんが、米国や中国では先住民や少数民族に対して治外法権や土地所有、大学の特別枠など様々な特権が存在しています。このテーマはあれだけエロや人種差別等の所謂タブーに寛大なアメリカにおいても、最も触れづらいタブーのひとつのようで、この点に触れた映画はあまり存在していません。そんな扱いづらさを物語るように土地勘も無い新米捜査員1名を派遣したFBI。保留地へ彼女がやって来るこの登場シーンだけで、これからパンドラの箱を開けることになるのだと察します。なんとなく最初から皆結末がわかっているような空気感の中、2人が正義感のみで真実を暴こうと奮闘するのは、殺されたナタリーがあまりにも悲しい状況下で殺されているからですが、真実が暴かれるにつれ、視聴者側はますます見ていて辛い状況になっていきます。もちろんサスペンス映画としてのエンタメ要素として構成されているため、ここまで痛ましい事件が日常的に起きているとは言えませんが、世間に一石投じたかったSheridan監督の意思をはっきりと感じられます。まさに社会派サスペンス映画、こういった知られざる闇のようなものが、アメリカにおいてもまだ存在していることが何とも面白いですね。現代社会派サスペンスは中東・アフリカを舞台にすべしというイメージの中、灯台下暗しのような感覚でした。

 そしてその重いテーマを演じきったJeremy Rennerが良いですね。雪が積もる中カウボーイハットを被ってしまうステレオタイプのようなアメリカンカウボーイのランバートを演じていますが、何だかいつものカウボーイ像とは少し違っています。今までのカウボーイ像は陽気か寡黙な男という印象ですが、思ったより人の気持ちに寄り添おうとする独特な男ランバート。自身も娘の死を経験しているだけに感情も複雑ですが、真実を突き止めたい気持ちと親としての気持ちの交差具合が絶妙で、正直Jeremy Rennerの印象ばかり残っています。「フルハウス」のミシェルでお馴染みの双子Olsen姉妹の実妹Elizabeth Olsen演じるバナーも若くてチャラチャラして良かったのですが重みが違いますね。後半はJeremy Rennerの表情見たさに見ていたと言っても過言ではないくらいでした。

 とはいえ全体的には監督の意思が前に出すぎな印象もありです。Sheridan監督はインタビューで「誰も、わざわざお金を払って説教くさい映画を見たくはありません」と語っていましたが、確かに問題提起に対する回答を語っていないので何か教訓を学ばされたという訳ではありませんが、伝わってるよね?わかるよね?と何度も問われているような前のめりな意思を感じる部分が多かったようにも思います、特に最後とかね。結果「かまってちゃん映画」にはなっていますよっていう。見てよかった映画でしたし、この現実は人にも伝えたいと思える作品でしたが、次回作ではもう少し肩の力を抜いて欲しいかなと監督に対して思いました。
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