panpie

ウインド・リバーのpanpieのレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
4.2
映画館で観たのだがレビューしていなかった。
観た後にパンフを買おうと売り場へ行こうとして諦めた。
丁度その頃「カメラを止めるな」で劇場はごった返していて売り場近くには凄い人で溢れ近付けなかった。
いつも通っているこの映画館でこんな事は初めて。
お客の入りが多くても2/3位のゆったり観られる所が好きで通っているのだがこの時はそれが素直に嬉しくてこのお陰でこの劇場も潰れないななんて親心が出た。
また来るからいいや、その時に買おう。
あの時は単純にそう思っていたけどその一週間後に他の映画を観に行ったのにパンフは既に売り切れていて残念ながらタイミングも合わず二度観る事は叶わなかった。
ずっと引っかかっていた作品。
二度と観たくない重い内容なんだけど何でだろう、もう一度観たかった作品。
レンタルが開始されたので改めてレビュー。

テイラー・シェリダンの脚本した「ボーダーライン」「最後の追跡」の二本を過去に観ているのだけどその中でも地味に感じたが今作が監督デビュー作でもある。
ナタリーの父親役を演じたギル・バーミンガムを見て「最後の追跡」でジェフ・ブリッジスの相棒でアメリカ先住民とのハーフ役アルベルトで出演していた事を思い出したがこんな感じだったかな。
今作主演で好演していたジェレミー・レナーはクリス・パインが降板したから役を得たと知っていたが「最後の追跡」の出演者を揃えたかったのかな。
ジョン・バーンサルも出ていたな。
でもあれは「ボーダーライン」だったか。
「最後の追跡」のクリス・パインもなかなか良かったから彼のコリー役も観てみたかったが今作は彼の降板により白羽の矢が立ったジェレミー・レナーがとても良かった。
白人でありながら先住民の娘と結婚した役でハンターを生業にしているところから地元では受け入れられていたと見えるがそこに至るまでの道のりはさぞかし長かっただろう。
人種、宗教を超えて親族になる事の大変さを想像するとよく結婚を許されたと思う。
許されなかったが子供を授かったから後々許されたとか色々コリーの過去を想像してしまう。
やっと許されたのにあんな事になってしまったなんて。
コリーがその後もこの先住民の土地で変わらぬ生活を続ける一方で元妻は残された息子と共にここから遠く離れた都会で暮らそうとしている設定も理解できる。
コリーは愛娘エミリーを殺した奴を見つけ出してどうして遠く離れた所で見つかり何があったのか真実を知りたかったのだろう。
そして娘と同じ苦しみをそいつに味合わせたかったに違いない。
それだけを心の支えにして生きてきた。
男親の失った娘への悲しみ方が母親のそれとは違うと描いているところが良かった。

最愛の娘ナタリーを殺されたマーティンが被害者家族の気持ちを全く理解していない若いFBI捜査官ジェーンに苛立っていたところにレナー演じるコリーが現れるとそれまで堪えてきた悲しみが堰を切った様に溢れ出し泣き崩れ抱き合う。
部族の死化粧さえも知らなくてもうネイティブアメリカンの受け継がれるべき伝統すら現代の彼等には継承されていなくてスウェーデンの熱烈なサッカーサポーターの如く国旗(スウェーデン国旗は青と黄色だけど(^^;;)みたいな自作の死化粧で死んだ娘を想い死のうとしていた男の物哀しさと少しのおかしみがじんわりと溢れていた。
この二人のシーンはどちらも泣けた。
ジェレミー・レナーもギル・バーミンガムも地味であるが素晴らしい俳優だ。
娘がレイプされて死んだなんて想像するのも嫌だが真実を見つけ同じ方法で死に追いやるやり方に共感を覚えた。
コリーの娘を殺した犯人ではなかったがマーティンを救ってこの時は少しだけ心が軽くなったかもしれない。
「スリービルボード」「女は二度決断する」を思い出した。
今年はこのテーマが多かった様に思う。
世の中はこんな事件で溢れ返っているのか。
女の子を子供に持つ親として私はとても悲しい。

はじめは疎まれていた白人の小娘のジェーンはまだ若いとあって捜査への熱意は伝わってくるものの子を失った親の悲しみを想像するにはあまりにも若すぎてネイティブの反感を買う。
しかし今作はジェーンの成長物語でもある。
コリーが入院しているジェーンを見舞うシーンで雑誌を読み上げるのだが〝10〟という数字に反応してナタリーがあの薄着で裸足で雪の上を10キロ走った所で息絶えた事を思い出しジェーンが嗚咽しながら泣くあのラストは良かった。
ジェーンはこの捜査で瀕死の重傷を負ったけど体の傷だけでなく心にも大きな傷を負ってそれを治癒しながらFBIとしては勿論自身も大人へと成長していく事だろう。
亡くした娘エミリーとナタリーが同期したからコリーも犯人を始末するという心の奥底に隠し持った目的はあったもののジェーンを支え助けたんだと思う。
ラストで瀕死で動けないジェーンに奴を殺してもいいかとはっきり言わないまでも確認しジェーンも頷いたという事は上(FBIの上司)には犯人一名逃走と報告しただろうがコリーが後を追った事は知らせてない筈。
彼のやり方でとどめを刺す事への暗黙の了解。
本当は違法なんだけどナタリーの事や自分も殺されかけたのだからジェーンもこの事は墓まで持っていく事だろう。
本当に脚本が上手い。
でも観た後苦くて重くて暫く観たくない。
ジェーンの、コリーのその後を見てみたいと思った。
まるで「ボーダーライン」を観た後のよう。
あれも続編あったしちょっとだけ期待して待ってみようかな。
代わりに「最後の追跡」をもう一度観たいと思った。


今年最後のレビューになってしまいました。
今年後半から色々とあってなかなかレビュー出来ませんでした。
観たのにレビューが遅れがちでいいねを下さった方のレビューを読むのも遅れがちでごめんなさい。
今年もありがとうございました。
また来年もよろしくお願いします。m(_ _)m
panpie

panpie