幽斎

ウインド・リバーの幽斎のレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
4.0
「少女はなぜ凍死したのか ?」この行で始まる物語は一見ミステリー調ですが、実際は現代版の西部劇と呼べる様な、且つ優れた物語性を持ったドキュメンタリー的な傑作と言える。普通ならマイナス30℃の雪山を裸足で10キロ走って死んだ、その理由を探るのだが本作の主眼は其処では無く、この状況下に置かれたウインドリバーという場所の本質にフォーカスしている。マイノリティ等と言う甘っちょろい世界観で無く、見る者を映画と言う娯楽を通じながら、この過酷な環境を少しでも考えて欲しいと願う作り手の想いが画面から迸っている。

Taylor Sheridan監督は10年以上の俳優としてのキャリアを踏まえ、このネイティヴアメリカンの闇を描くべく脚本を執筆したが、様々な監督に依頼したが誰も共感してもらえず、だったら自分が、と言う事で監督したとインタビューで語っていたのが別の意味で切ない。製作費を集めるのも大変だったようだが、その脚本に魅かれて出演した俳優陣に拍手を送りたい。前作「最後の追跡」もお薦めです。

主演のJeremy Rennerは、「ミッション・インポッシブル」でキレの有るアクションを熟したものだから、そっち系の俳優のイメージが有るが「メッセージ」の様に本来は静かな男を熱く演じる事に秀でた人だと本作で再認識した。Elizabeth Olsenも2人のお姉さんが共に女優と言う恵まれた環境だが、本作でもしっかりした存在感を出していた。単なるバディムービーに留まらず、例えばOlsenが借りる服が誰の物とか、丁寧に人物描写をしている点も地味だが素晴らしい。

この作品を見て思った事は「いやぁ、アメリカって酷い事するね」と言う事では無く、じゃあ日本はどうなんだろう?と。私は沖縄の人ともましてやアイヌの人と親しい訳では無い。しかし、彼らから見れば本土の人間はおそらく「大和の人」と思われるだろう。同じ言葉を話す日本人では有るが、その歴史や生い立ちを私達はどれだけ知っているだろうか、そして理解してるだろうか?。それは単に教育の問題では無く私達の意識の無さ、そのものだと思う。少なくとも私はアメリカを批判する資格はありません。

物語はシンプルながら非常に奥行きの深い、そして久し振りに心に染みる作品でした。テーマが重いので体調の良い時にご覧ください。
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