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ウインド・リバーのCookieMonsterのレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
3.6
先住民居住地で起きる殺人事件
アメリカから孤立した土地で、事件を捜査することになる害獣駆除のハンター
分断されたアメリカの暗部と個人の闇に光を照射するミステリー

アメリカ先住民というマイノリティ問題は日本でも知られるところではあるけれど、捜査権やその内実に踏み込んだものは少ない
また作中では、救急車や警察の応援を呼ぶにも極寒の雪が外的世界との隔絶を招いている
それはあたかも離島の医療問題にも似て、ネットによってボーダレスになっても距離などの物理的な問題は解決されていないことを示している
地域として分断された社会
そして社会的、文化的に分断されたことが人々の生活や心理に及ぼす影響は、犯罪を犯す側への抑止力低下をも同時に意味している

主人公の男はハンターで、雪に残された足跡などの痕跡から獣を追う
そこを通ったという確かな痕跡は吹雪で簡単に掻き消されてしまう暫時的なものに過ぎず、保存することができない
また誰もが理解できるようなわかりやすいものでもない
これは先住民社会のおかれた立場を隠喩している
そこに確かに存在しても周囲からは見えず、他のニュースに掻き消されてしまう
雪はいつも物事を覆い隠すモチーフとして使われてきた
アトム・エゴヤンの映画『スウィートヒアアフター』でもそうだったように
白い世界は圧倒的なまでにすべてを飲み込み、人々の声を吸い込んでしまう

この作品の主人公はハンターの男と偶然赴任された新人のFBI女性捜査官だ
先住民居住地を知っている男と、何も知らない女という対比構造によって、社会の閉鎖性と問題の根深さを描き出すという手法だ
特に被害者の父親の家に訪れた際の、女にみせる頑なな表情と、知り合いの男の顔をみた瞬間に表情が泣き崩れるシーンは、とても身につまされるが、その典型的な描写だ
そして、ポイントはハンターである男も先住民の元妻と結婚したことでこの街を知った“外部からやってきたもの”であるという点だ
それは外部の人間であっても関係性を構築可能であるという希望かもしれないし、興行収入を稼げる先住民の俳優がいないという現実的なダイバーシティの問題にも思える
実際に作中の先住民の俳優がいないという指摘もあったようだが、その事実の方が余程問題の根深さを思わせる気がする

但し、この作品が評価されているポイントとなっている、マイノリティ問題の描き方については、果たして高評価に値するかは甚だ疑問に感じる
先住民の現状にある程度理解のある観客であれば、統計的な事実をなぞったような描写に感じられるし、FBI捜査官のあまりの無知ぶりはステレオタイプなものにみえる
また犯罪シーンの差し込まれ方はあまりにも唐突で、ミステリ的なストーリーテーリングを装いながら他のミステリ作品と比較しても出来は劣る印象
それでも俳優陣の演技は作品にリアリティを付与しているし、2時間弱という時間内に問題をうまくまとめた佳作だと思う
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