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奇跡の教室 受け継ぐ者たちへの小のレビュー・感想・評価

3.9
思春期の子供たちに話を聞いてもらうにはどうしたら良いか。以前、「戦う哲学者」こと中島義道先生の本で、それは自分の経験を語ることだという趣旨のことを読んだ記憶がある。どの本か忘れてしまったけど、大体次のようなエピソードが書いてあった(記憶違いがあったらスミマセン)。

中島先生はある日、NHKのテレビ番組を見た。世の中を斜めに見ている感じの高校生を集め、教育関係者や著名人と話をしてもらうという内容だった。

高校生たちは、教育関係者の説教くさい話や識者の理詰めの話には反発し、騒然となり、まったく耳を貸さなかった。しかし、彼らが唯一水を打ったように聞いていたのが、美輪明宏さんの話だった。

美輪さんの話は、自分がこれまでに受けてきた数々の差別や苦難といった自らの経験だった。

人は他人から説教されるのは大嫌いだけど、他人の経験から学ぶことは容易なのだ。

だから、読書をすること、映画を観ることは、良いことなのだ(半分言い訳)。他人の経験(考え)を疑似体験することで、自分の悪い点に気付き、自ら修正できるから。『しくじり先生』というテレビ番組なんて、こういう切り口の教訓話なら観てもらえるという感じがアリアリと…。

前置きが長くなったけど、この映画のテーマも同じだろう。当時18歳だった少年が、監督へ一通のメールを送ったことから始まった実話に基づく物語。

貧困層が暮らすパリ郊外の高校の落ちこぼれクラス。そこには様々な人種の生徒たちが集まる。学校・社会に対する憤懣に加え、生徒間の民族的・宗教的対立といった問題もあり、学級崩壊状態。そのクラスに厳格だけど情熱と愛情にあふれた歴史教師アンヌ・ゲゲン先生がやってくる。

アンヌ先生はクラスが一丸となるよう生徒たちに全国歴史コンクールに参加することを持ちかける。しかし、「アウシュビッツ」という重く、難しいテーマに生徒たちは大苦戦。それぞれが思い思いのテーマに取り掛かるけど、まとまらない。

そこでアンヌ先生は、強制収容所の生き残りレオン・ズィゲル氏を招いて体験を語ってもらう。するとクラスの状況が一変。≪この生き証人が生徒達に自らの恐怖と希望の体験を語り、生徒達は“本当”にそのホロコーストの記憶にノックアウトされるのだ≫(公式HP)。

ワンテイクで撮られたこのシーンは映画最大のハイライト。観ているこちらまでノックアウトされてしまう。「どんな些細なことでも、生きる力となる」というのは、この経験をした人にしか言えない金言だと思う(詳しくは映画を観てください)。

予告を観たときからこれは好きなヤツかもと思っていたけど、期待通り。スポーツとかではなく、「全国歴史コンクール」というお勉強系でどうやってクラスがまとまるのだろう、と思って観ていたけど、納得せざるを得ないでしょ。それにしても全国歴史コンクール、日本でもやったらどうなのかしら。
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