むらむら

奇跡の教室 受け継ぐ者たちへのむらむらのレビュー・感想・評価

5.0
武田鉄矢が女装してるようにしか見えない女教師が、ダメ高校のダメクラスを立て直す映画。

このクラス、落ちこぼれだらけで、アメリカにいたらナイキやアップルストアに嬉々として押し入ってそうな不良から、コミュ障の陰キャまで、まぁ授業をするような雰囲気ではない。そこに、先生はコンテストへの参加を提案。最初は反発を食らうも、次第に生徒たちはまとまっていく、みたいな内容。

いやね、確かに良い映画なんです。特に、実話を元にしているからか、先生の生徒への対応はとてもリアリティに満ちている。先生は、机に飛び乗って演説することもないし、バイクで生徒と首都高を暴走することもない。屋上から飛び降りた生徒をダイビングキャッチすることもない。あくまで淡々と、事実を記録した博物館や、実在の人物の証言から、生徒たちの心を重いテーマに振り向かせていく。地味だけど、素晴らしい映画です。

ただ一点、俺が気に入らないのは、このコンテストが「アウシュビッツ」をテーマにしている、というところなんですよ。

これが「アウシュビッツを振り返る」コンテストじゃなくて「フランスパンの理想的な硬さを決める」コンテストとか、そんなのだったら、たぶんこんな感動はないわけで。

特に、途中、アウシュビッツからの生還者である齢80才を越えるお爺ちゃんの証言のシーン。おそらく、生徒役も、素に戻って感動してるんじゃないかな、って思う。でも、これは映画の良さではなくて、「アウシュビッツ」の持つ重みなわけで……パン職人が石焼窯に案内してくれて、熱く石焼窯について語るシーンだったら、こんなにチート感を感じることはなかったかなーと。

そして、これは個人的な意見ではあるんだけど、最初の方のシーンで、パレスチナ問題をアウシュビッツとは違う特殊な問題(アウシュビッツは民族浄化が目的)だと定義するとこがあって、そこにも違和感を感じたかなー。もちろん、アウシュビッツは大きな悲劇なんだけど、ウイグル弾圧だったりロヒンギャ問題だったり、民族を根絶やしにする勢力ってのは大なり小なりいて、パレスチナ問題だって、パレスチナ自治区への一部ユダヤ人入植者たちのやり方は、やはり許せないと思ったりするし。アウシュビッツだけを特別視するのは、ちょっと納得いかなかった。

グダグダと文句を書いてしまったけど、観たあとに色々と考えさせられるという点で、皆さんにも観てほしい作品だな、と感じています。途中に書いたけど、爺の独白のシーンは、そこだけでも異様な重みがあります。
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