はぐれ

ダムネーション 天罰のはぐれのレビュー・感想・評価

ダムネーション 天罰(1988年製作の映画)
4.2
巨匠タル・ベーラがその独特なスタイルを確立した記念碑的な作品。それがなんと今現在配信されていることを知り早速鑑賞。

鉱山から運ばれてくる石炭を載せた滑車のきしむ音、一面が酒に濡れて怪しく光る酒場の床、この世に希望何て微塵も期待していない疲れ果てた顔、顔、顔。あー、この無国籍な終末観と絶望感がいかにもタル・ベーラだなー。観客を一瞬で暗澹たる気持ちにさせる天才。

ストーリーはどこにでもありそうな不倫ものなんだけど、巨匠にかかるとこんなにも魅惑的に撮れてしまうのね。夢破れた女性シンガーがうだつの上がらない男と無感情に不貞を交わす寝室。そして、楽譜が置かれたピアノが鎮座するその隣の稽古部屋。この吐き捨てるようなカット、その無慈悲な対比ね。ホントどうしようもないサディストだよ。

「家族の物語は惨めに終わると決まっている。結局は全て破滅の物語だ」。藁をも掴む気持ちで汚い仕事を引き受けた夫婦にこんな辛辣なセリフを普通浴びせる?(笑)。普段行われている日常会話何て皆無で、文学的で含蓄がありそうな会話のやり取りの応酬なんだけど、その中身は実は空っぽというシニカルな演出ね。

どこまででも堕ちていきたい時には最良の友となってくれる作品。舞台となる『タイタニック・バー』も実に皮肉なネーミング。ヴィーグ・ミハーイの時代を先取りしたドローンミュージックが素晴らしい。
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