カトゥ

ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜のカトゥのレビュー・感想・評価

4.0
映画館を出た時の周囲の雰囲気や、その後のネットのレビューからは、「思っていたのとは違う」とか「なんだかよくわからなかった」という感想が多い様子。
たぶん予告編や、冒頭のシーンから誤解をして、つまり「これは、こういう映画なのだろう」と思いこんだ事で、終盤に至って“実はそうではない類の作品だった”事を上手く消化できていないのだと推測する。
冒頭の「夢」のお話からは、なんだか「心を蔑ろにした、機械と科学に支配された悪い世界」と、それに対抗する天真爛漫で自由闊達な「魔法のお姫様」のストーリーが想像できる。よくある陳腐な話だ。僕はこのまま「フクシマ」とか「放射能」を象徴する何かが出てきたら嫌だなあ、なんて思ったものだ。

でもこの映画は(実はまるで)違う。
魔法というのはソフトウェア技術であり、「王国」のハード屋との対立や協調が、物語の大きな柱になっている。
主人公の女の子(とてもよく動く、元気で魅力的なキャラクターだった)が寝るたびに訪れる、現実世界とリンクしているような「王国」のストーリーもまた、ファンタジックな要素が実はほとんど無い。
これが「おおかみこどもの雨と雪」の監督だったら、きっと後半は現実が侵食されて、少女の想いが奇跡を起こすだろう。
そうではなくて、どこまでも技術と行動で、現実に生きる人間が現実的に問題解決に当たる、要はエンジニアがエンジニアリングを頑張るという、「プロジェクトX」みたいなお話と、企業内紛争に伴う軽犯罪と、少女が御都合主義的に掘り下げる父母の過去、それが1本のストーリーとなっている。「夢」パートは、問題解決のヒントみたいなものだ。
ハイコンテクストと言うのだろうか、見た目以上に前知識が必要な映画だとは思う。

ソフトウェア系の“戦い”で、キーボード連打合戦にしなかった点など、新しくて感心したのだが、人によってはわかりづらいのではないだろうか。「サマーウォーズ」等がそうだが、テクノロジーを描くには少し昔のやり方を持ち出したほうが万人に伝わる。
全体的に、そんなマニアックな描写と、説明台詞とどこかで見たようなシーンが混ざっていて、鑑賞側の混乱と妙な味わいに繋がっていると思う。

奇跡・ミラクルの類は、僕が認識できたのは1つだけ、でももちろんここには書かない。
きちんと感動するし、瀬戸内海の風景はとても美しい。メカニック描写も格好良いし、「夢」パートの楽しさも特筆できる。
でも、どこか理知的なのだ。エモーショナルかつロジカル。
なるほど「Stand Alone Complex」の監督だ。



そういえば、ひとつ面白かったのが、この映画では「反省して心を入れ替える」人がいない。僕が覚えている限り、だれひとりとして安易な変化をしない。
各人が少しずつ代わり、でも今までの生き方も否定しない。映画の明るい雰囲気には合っていた、と思うが、同行者はそれほど気にしていない様だったので、実はそれほど珍しい事ではないのかもしれない。
 
夢から始まり日常と現実を描き、未来へ到達する。今の時期だからこそ楽しめる、自動化モビリティと人間のお話。
この作品に限っては、不思議は本題ではなかったのだ。そこは歪というか、この種の「爽やかな劇場アニメ映画」の定石から外れている。なんで外れたのかは、よくわからないけれど。
カトゥ

カトゥ