Tully

田園に死すのTullyのネタバレレビュー・内容・結末

田園に死す(1974年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

怪作ってこういうもののことを言うんでしょうか。やっていることの意味がちょっとよく分からなくても 「なんか素敵だなー」 って思ってしまう。理解不能でも説得力はある、というか。ほんとにスゴイと思ったんですよ。映像は迫力だけではなくて、意味がとてもがっちり詰まっているというか。恐山の風景とか、田舎の冷たく湿った感じとか荒れた感じ。そして恐ろしい感じが一緒くたになって襲いかかってきても、実はぐちゃぐちゃじゃなくってすっきりと調和しているんです。そうなんですよ、とても綺麗なんです。だから不愉快にならずに落ち着いて見ることができるんです。音の表現も独特ですが、ちゃんと意味があるので面白いです。ギターのギラギラした音とか、割れかかったような歌、歌詞の内容などはちょっとハードで棘がある感じですけどね。「エロアングラ」 なんていうのは、実は表面だけの話なんです。根底にあるのは、もっと純粋な 「自伝的作品を制作することによって、現実において何が変わるのか」 という探究だと思います。どぎついシーンはそのまま彼の過去の印象から生まれているのか、あるいはただの表現スタイルなんだと思います。挑発的なものがほとんど感じられなかった。「シュルレアリスム」 というより 「幻想的芸術」 とも言える映像表現は、彼の自分の記憶に関するイメージが重要な要素になっていると思います。また記憶を再構築するという行為、に対する彼なりの解釈もそこには含まれていると思います。記憶というものが幻想に近いものである以上、これを真実っぽく脚色するのはどうしてもしたくない、おかしな表現でもそのままぶち込んでやろうという彼の考えを感じ取りました。現今の日本ではもう二度と見られないような、不気味な因習的社会。正直自分も子供の頃は、田舎って独自の色が強い、ちょっと恐ろしい場所だったと思っていたような気がします。冷たくて湿っていて、非合理的な世界。自分はそこから逃れたかった、でもときどき不思議と愛らしく思うのです。
Tully

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