ベルサイユ製麺

KOKOROのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

KOKORO(2016年製作の映画)
3.2
日本を舞台にした、ベルギー・フランス・カナダ合作映画。
ハードテクノが鳴り響く中、マルジェラ製の道着を着てメープルシロップを塗りたくったフランスパンで殴り合う、“ル・パン道”に撃ち込む若者達。群像劇です。

いつもの適当なホラはともかく、なんか不安…。特にフランスと日本の組み合わせにはあんまり良い印象無い。なんか抽象概念の伝言ゲームみたいになりがちで、製作者達だけ御満悦…みたいなのが多い気がします。
「これは…“光”」→「…そう!“命”ね」とか、そんな。


経済的には恵まれているものの、冷淡な夫とワガママな子供達に挟まれ、いつもうっすら憂鬱そうなアリス。
ある日彼女の元を訪ねてきたのは実弟のナタン。手首には恋人の名前“久美子”と大きくタトゥーされている。彼は無邪気でなんでも楽しみに変えてしまうような、まるでアリスとは対照的な人物に見えるが、実は以前はアリスもナタンと同じく開放的でアッパーな性格だったようだ。
ナタンはアリスに言う。「凄い人に有った。ダイスケだ。一緒に日本に会いに行こう。」…今のアリスは、その提案に乗れる状況に無い。大人らしい態度でやんわりと固辞した(つもりだ)が、その事がナタンを酷く傷つけたようだ。
…そんな事が尾を引き、鬱々と過ごしていたある日、アリスに信じられない知らせが届く。
…アリスは単身日本行きを決意した。

フランス映画とフランス映画的日本映画の中間ぐらいの淡々したトーンで物語は展開します。主演のイザベル・カレさんは、フィルモを見る限り『6つの心』(←生涯トップクラスの謎映画)で目にしているようですが、気持ち的には初見。随分お若く見える方ですね。フランス女優には珍しく内面がグラグラ(の役柄なのですが)に見えるのがフレッシュです。
フランス編は前半でさっさと終了。以降日本パートになるのですが、舞台のモデルはなんと自殺の名所、どうやら“東尋坊”のようなのです。そう、“ピエール瀧の体操36歳”の改造手術シーンでおなじみの、あの崖です!(今作では撮影許可がおりず似た場所を探したようです。ピエール瀧はOKだったのに!)
この崖を見回り、自殺志願者を思いとどまらせ、自宅に招き優しく寄り添う初老の男。ナタンが話していたダイスケです。ダイスケ役に國村隼。長くなるので『コクソン』ネタ封印!

ロケーションが日本に変わっても如何にも外国人が撮った日本に見えるのが不思議です。唯一、ひとり浜辺に佇むマリアが「ウォオオオォ!」と叫ぶシーンが有って、やはり日本の磁場が叫ばせずにいられないのかと感心しました。日本では悩んだらみんな叫ぶのだよ。
ストーリー展開はシンプルで、というかやはり心の問題に終始します。焦点になるのはマリアは何を求めてダイスケの元にやって来たのか?ですが、答えは心の中にしかなく、彼女の心情にうまく寄り添えないと深く理解出来ないし、映画そのものの輪郭もボンヤリとしたものになってしまいそう。…はい。なりました。
感想を正直に言ってしまうと「こういう映画、有るよね」という感じです。大いに結構、何本でも作って欲しい。嫌いではないです。
これも勿論好みの問題ですが、多く有る“こういう映画”から一歩抜きん出て特別な映画になるには何かが足りないと感じました。或いは何かが多過ぎる?全体的に無難な仕上がりに見えてしまい、突破力・貫通力が足りないような…。

印象に残った点を。
⚫︎門脇麦が可愛く撮れてない。耐性の無い海外の観客には充分チャーミングに映るのかもしれませんが、エキセントリックなキャラクターも何処かスベり気味でパッとしない。ひょっとしたら彼女自身で意図して光を消しているのかもしれませんが。相変わらずの脱ぎっぷりですが、最早それが特別に見えない、というのは彼女の目指すところなのでしょうね。あと英語上手い!多分だけど。…冷静を装って書きましたが、めちゃくちゃ好きです。
⚫︎安藤政信がイイ!いやホント大して演技してない役柄なのですけど、ムードがすごく良い。ボロい作業着で、髭ボーボーの髪ボサボサでも退廃的な色気が滲みまくりです。アートタッチのBLに出そう。海外の皆さん!日本にもこういうのが居るんですよ⁈
⚫︎撮影が、どうとは言えないけど良い。どこの国の映画か分からないような感じがなかなか魅力的でした。やや端正過ぎかもしれないけど。

…で、サッと苦言を。
日本が制作に全く関わっていない日本舞台の映画なら、どんなに日本の風景や自然を“神秘的”みたいに撮影しても問題ないと思うのですが、仮にもし日本も制作に関わってるのだとしたらその描き方はちょっと恥ずかしいなぁ…。なんか日本の精神性みたいな物を外国の方に褒めて欲しがってるみたいじゃないですか?それじゃあ、それじゃあまるで、録画してある“日本の技術に外国人が驚く番組”を繰り返し見ている年配の方みたいで寂し過ぎるよ!(私の父です…。)