Sato

パーティクル・フィーバー ~人類はヒッグス粒子を見た~/粒子への熱い想いのSatoのレビュー・感想・評価

4.0
ヒッグス粒子の発見に至るまでを追ったドキュメンタリー映画。時間も予算も関わった人数も桁外れのプロジェクト。物理学者が皆楽しそうで、すごく憧れる。経済的なリターンを求めない、純粋な好奇心から追い求める自然科学って、今や素粒子物理学とか宇宙物理学くらいしかない。人種や政治を越えたプロジェクトで、関係者の目が輝いてるのがよくわかる。ただ、発見の内容によっては数十年間をドブに捨てることになるかもしれない学者もいるわけで、真理を探求する道の厳しさも垣間見える。途中で出てくるセリフにもあるけど、科学の世界に努力賞はない。リスクがあるからこそ挑戦しがいもあるんだろうけど。

映画では理論物理学者と実験物理学者が協力してる姿が描かれている。これはLHCの特徴だろう。理論物理学を検証するためにあれだけバカでかいものを作り上げたけれど、実際の運用には当然実験物理学者の力が必要。この辺りのやり取りも見てて面白かった。

対照的に悲しくなるのが頓挫したアメリカの計画。確かに国防より重要とは思えない、成果を利用すればいいと言われれば反論は難しい。イノベーションは無駄と思われる知見の積み重ねから起こると言われても、実際問題、雲をつかむような話には投資できない。ハッブル宇宙望遠鏡のように、わかりやすい成果を市民にアピールできれば別だけど、目で見えない世界の話は想像すら難しい。LHCにも批判はかなりあった。別の話になっちゃうけど、LHC完成までの物語を映画にしても面白そう。

「神の粒子」と言われ、標準模型の最後のピースであったヒッグス粒子。自然法則の美しさや、誰かが設計したとしか思えない偶然を目の当たりにする中で、神の存在を肯定する物理学者もいる。映画では控えめな表現だったが、これは論争を避けるというより、実験の本質ではないということだろう。

映画を観ていて思い出したのが、「実験でマイクロブラックホールが発生して地球を飲み込む」という与太話。大半の人は話半分に聞き流しつつも、不安と興味に駆られたのではなかろうか。一方日本ではSTEINS;GATE(LHCや"SERN"が鍵になってる)がヒットし、CERN関係者が掲示板で言及したりすることも。この斜め上っぷり、平和だなぁと感じた記憶がある。
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