近本光司

ワンダーストラックの近本光司のレビュー・感想・評価

ワンダーストラック(2017年製作の映画)
3.5
ニューヨークの一角に構える古本屋の造型がすばらしい。ミネソタの片田舎から父を索めて飛びだした少年と、古本屋を営む滋味ぶかき年老いた店主と、すらりとして瀟洒な格好をした老婆。二人の聾者をふくめたその三人のあいだに必然的に生じるコミュニケーションの遅延に、観客たちもまた少年と同様にはらはらした気持で真相が明かされるのを待つことになる。ニューヨークのジオラマ、大停電の夜。あのロマンチズムの渋滞は際どいところだが、ファンタジーだと割り切れば素直に受け入れられる(だからこそ人形劇のインサートは巧い)。この類の作品をトッド・ヘインズがつくってくれているからこそ、ケリー・ライカートはインディペンデントに邁進し続けられるのだろう。現代アメリカ映画の良心。ポンピドゥ・センターのヘインズ特集にて。