ひでぞう

群衆の中の一つの顔のひでぞうのレビュー・感想・評価

群衆の中の一つの顔(1957年製作の映画)
4.6
「この国の連中は、羊の群れのようなもので、笛を吹いたら、すぐに飛び跳ねる」。メディアを通して、群衆を思いのままにコントロールできるという、主人公のロンサム・ローズの言葉である。ここには、大衆蔑視があるし、そして、ポピュリズムの姿がある。いささか、直線的過ぎるが、しかし、確かに、この映画で、メディアの持つ「本質」が暴かれている。テレビ黎明期であるがゆえに、広告主、政治家、テレビ局など、その構図はシンプルだ。現在は、より複雑に、柔軟に、ボロを出さないようになっているが、本質は変わらない。それゆえに、ここでのメディアをめぐる物語は、現在を考えるうえでも、重要な参照点をなしている。
 オリヴァー・ストーンが、『ブッシュ』をつくるときに、参考にしたのが、この映画であることも納得できる。
 ロンサムを批判する本のタイトルは、『ジーンズをはいたデマゴーグ』であった。現在の日本では、なにか一人の「カリスマ」がデマゴーグになるというイメージはない。むしろ、ネットにみられる「言説」をみると、『群衆という名のデマゴーグ』に感じる。それほど、複雑な時代なのだ。
 カザンにしては「凡作」とする、映画評論家の双葉十三郎の評価は、映画評論としては、理解できるが、しかし、むしろ、私には、日本で、なぜこうした映画が全くつくられないのか、そのことのほうに問題を感じてしまう。
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