櫻イミト

群衆の中の一つの顔の櫻イミトのレビュー・感想・評価

群衆の中の一つの顔(1957年製作の映画)
3.5
カザン監督がテレビ・マスコミの力に警鐘を鳴らした社会派映画。日本では知られていないがアメリカでは現在でも重要作とされている一本。

ラジオの女性ディレクター、マーシャは、様々な人々の声を紹介する番組「群衆の中の一つの顔」の取材で拘置所を訪れ、片田舎の浮浪者ロンサムと出会う。粗暴だが庶民の気持ちを代弁するロンサムの弾き語りに魅力を感じ、収録して放送したところ大反響。これがきっかけでロンサムはテレビへと進出、マスコミの寵児となっていく。スターとなった彼の元には企業や議員が集まってきて。。。

キャプラ監督の「群衆」(1941)と類似点があるが、同作は新聞&ラジオメディアで主人公ジョン・ドゥーは良心的だった。対して本作はテレビメディアで、主人公ロンサムの愚かな権力志向が非良心的に描かれている。赤狩りで嫌疑をかけられたキャプラ監督と、仲間を売り渡してしまったカザン監督の個性の違いも反映しているかもしれない。

主人公が粗暴で口がうまい、個人的に嫌いなタイプだったので楽しみにくかったが、内容は興味深く社会派映画としては重要作だと思う。電通が支配する日本では本作のような過激な作品は作りにくいだろう。

しかし現在の日本社会、ガーシ―氏があっという間に国会議員に当選してしまう状況は、60年以上前のアメリカを描いた本作の世界と何ら変わらない。今こそマスメディアは自戒の意味を込めて本作にスポットを当ててみるといいのではないだろうか。

「この国の連中は、羊の群れのようなもので、笛を吹いたら、すぐに飛び跳ねる」

自ら権威に依存し称賛したがる日本人のことを指しているように聞こえる。

※劇中で主人公は何度もウィル・ロジャースの再来と呼ばれる。
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