半兵衛

群衆の中の一つの顔の半兵衛のレビュー・感想・評価

群衆の中の一つの顔(1957年製作の映画)
3.7
『オール・ザ・キングス・メン』などの前例があるとはいえ、そこにテレビというメディアを絡めてより現代的な成り上がりの成功と破滅のドラマに仕上げているのは見事だし70年近くたっても古びていないのが凄い。何より現代のネット社会においてこの映画の主人公・ローズのような人間があちこちに実在している(その最もたる人物はあの大統領)ところにメディアがもたらした罪が嫌な感覚をともなってのし掛かってくる。

最初は好き勝手ズバズバ言って企業に媚びることを拒んでいた自由人ローズが、のしあがっていくうちに平気でチンドン屋みたいなことをやっていくのがリアル。そこに政治が絡むのもエグい。

でもそんな今でも通用するスタイルの作品を作りながらも誰からもリスペクトされないところに本作を監督したエリア・カザンが犯した罪の重さを痛感する。

若い頃のウォルター・マッソーが主人公をシニカルに観察する男を好演、ラストに彼が語るメディア論が圧巻でこの映画で作者が最も言いたいことが伝わってくる。

ローズとそんな彼をタレントとして抜擢してマネージャーとしてサポートしてきたヒロインによる複雑な愛情がもたらすシビアな結末も心を突き刺す、愛も社会的地位も転落した人間の叫びが虚しくこだまするエンディングの怖さよ。
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