「下に参りまぁす」
ラスト15分間が衝撃だった。
それまで頂点を極めた男が一瞬にしてどん底まで転落する。その状況をあのエレベーターのシーンで見事に表現されていた。
エリア・カザン監督の『群集の中の一つの顔』はポピュリズムの恐ろしさそして脆さを描いた傑作。
この映画が観たくて観たくてどんなにソフト化されることを待ち望んだことか。
アーカンソーの田舎町の留置場からこの物語ははじまる。地元ラジオ局のインタビュー番組『群集の中の一つの顔』で取材された飲んだくれの男ローズ(演:アンディ・グリフィス)。
ふてぶてしい態度ながら魂をゆさぶるような歌声で、放送された途端、番組には大きな反響があった。
彼を取材したマーシャ(演:パトリシア・ニール)は彼の才能に可能性を感じ、番組のMCに起用する。
歌だけではなく本音をズバズバ語るローズのパーソナリティーは早速評判を呼び、あれよあれよという間に人気タレントとして爆発的な人気になる。
しかし怪しい取り巻きも増え始め、やがて彼はわがままな本性を剥き出しにしてきて……。
演じるアンディ・グリフィスの風貌がドナルド・トランプそっくりなのが興味深い。やっぱり扇動家はああいうルックスになるのだろうか。
『欲望という名の電車』『波止場』『エデンの東』に比べると知名度は低いが、内容そして演出に関してはカザン作品の中でも一、二を争うクオリティだと思う。
特に役者が良かった。グリフィスとパトリシア・ニール他、ウォルター・マッソー、リー・レミック(本作がデビュー作)、アンソニー・フランシオサといったのちの名優たちがずらりと揃っている。
何しろあのウォルター・マッソーが大人しいインテリ青年を演じているのだ。後年の粗暴なイメージからは想像できませんネ。
そして本作の真の主役であるマーシャを演じたパトリシア・ニールの演技がとにかく凄かった。
最初は冷静沈着だった女性が段々ローズに振り回され、最後は自分を見失い錯乱してしまう様が実に見事だった。
ちなみにWikipediaやFilmarksでは『群衆の中の~』として登録されているが、当時のパンフレットを正とするならば『群集の中の~』が正しいタイトルである。
■映画 DATA==========================
監督:エリア・カザン
脚本:バッド・シュールバーグ
製作:エリア・カザン
音楽:トム・グレイザー
撮影:ハリー・ストラドリング/ゲイン・レシャー
公開:1957年5月28日(米)/1957年9月14日(日)