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カフェ・ソサエティのmasatのネタバレレビュー・内容・結末

カフェ・ソサエティ(2016年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

本作と次々作『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(19)、共に映画に憧れる若者が主役だ。『さよなら、さよならハリウッド』(02)を加えると老若男女が映画に振り回される、人間は映画で回っているかの様な、映画の存在感が見事に横たわっている。

そう、振り回される、すれ違う、行き違う、盲目・・・お馴染みのモティーフがアレン80歳を過ぎてもまだまだ健在だ。
ただ、その視線がかつてと違い、自身へのものではなく、若者へと注がれている事が、ウディ・アレン自身の成熟し切った、映画を知り尽くした“神”の視線へと繋がっている。まさに俯瞰の視点で、ハリウッドを、映画界を右往左往する若者たちを見つめている。

ハリウッドへやって来た青年が劇的な恋に落ち、やがて、ニューヨークへ戻り、抱旺力に満ちた大人の女と出会う。幸せに包み込まれる彼ではあった。しかし、初めてのハリウッドでの高揚感と共に発芽した初恋の感触が忘れられず・・・

この先は解らない。
と、珍しくハッキリさせない、いつになく落ち着かないラストは、新鮮でもあった。

また本作は、あの『1900年』(76)『ラスト・エンペラー』(87)「地獄の黙示録」(79)の名カメラマン、ヴィットリオ・ストラーロを“ついに”迎え、本作を含め、現在までに3本、タッグを組んだ。

しかし、これほど名だたる撮影監督を贅沢に使い散らかした監督は存在しないのではないか?この点もアレン映画の愉しみポイントの一つであり、映画史の奇跡の一つであり、アレンの運の強さを証明している。
『アニー・ホール』(77)で、アレンに対し、映画を教え転換点を飾らせたゴードン・ウィリスは、すでに「ゴッドファーザー」(72) をはじめ、『コールガール』(71)『ペーパーチェイス』(73)『大統領の陰謀』(76)を撮っていた。憧れの巨匠ベルイマンのカメラを司ったスヴェン・ニクヴィスト。デイビッド・フィンチャーのスタイルを決め、ハネケの最高作を撮ったダリウス・コンディ。『天国の門』(81)『未知との遭遇』(77)『ディア・ハンター』(78)・・・ニューシネマ期から枚挙にいとまが無いヴィルモス・スィグモンド。
その錚々たるメンツに、最もアレン作品を撮った(10本!)カルロ・ディ・パルマのLOOKは、アントニオーニを少し齧ったくらいでは物足りなさを感じる。

そんな幸福なアレンの横には、いま、ストラーロが腰を下ろしている。
しかし、あの赤々しい流麗なカメラワークをちょっと持て余し気味なアレン監督が、彼の映画の登場人物同様、振り回されているかの様だ。その間抜けたチャーミングさが、本当に愉しい!
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