りりー

カフェ・ソサエティのりりーのネタバレレビュー・内容・結末

カフェ・ソサエティ(2016年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

チャゼルが『ラ・ラ・ランド』で力業で描いた”あったかもしれない未来”を、アレンは本作で元恋人たちに同じ目をさせ、同じ台詞を言わせることで描いてみせる。その熟練の手腕は、男女がくっついたり別れたり、をそれこそ数十年描いてきたからなのだろう。もちろん『ラ・ラ・ランド』が劣ると言いたいわけではない。アレンだって『アニー・ホール』を撮ったのだ。若くなければ撮れない映画というものが、きっとあるのだろう。

華やかなハリウッドと美しいニューヨーク、いつか使ってみたい詩的な台詞(「片思いは結核より多くの人を殺す」!)、シニカルなユーモアと滑稽な恋模様。まさしくウディ・アレンな一作で満足。とてもアレン的なキャラクター、ボビーを演じたジェシー君が素晴らしかった。気が弱くてお人好しで、ユーモアがあってロマンチスト。経験を積んで堂々とした振る舞いをするようになっても、ロマンチックな一面は失わないところも良かった。
ボビーが、フィルと一緒にクラブへ訪れたヴォニーを見る目が印象に残った。かつて軽蔑していた類いの人間になってしまった彼女に落胆するあの目。しかし、言葉や時間を重ねて、あの頃できなかったことを実現して、ヴォニーは何も変わっていないのだと気づく。だとしても、もうあの頃には戻れない、と悟る夜明けの切ないこと。

ボビーはこの先ずっと、ヴェロニカ、と目の前の女性に囁きながら、脳裏のヴォニーの返事を待つのだろうか。そんな彼を、最低!と罵る気になれないのは、彼自身がちゃんとわかっているはずだから。「夢は夢だ」、「夢は夢よ」。人生は夢を見ている時間より、醒めてからのほうがずっと長いのだ。良いラストシーンだった。
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