浜

ありがとう、トニ・エルドマンの浜のレビュー・感想・評価

4.0
私がみて最初に思った感想は、こんなお父さん、嫌だ!より、こんな女、いるわ!でした。

職業柄、海外駐在の人たちとお会いすることがよくあります。その中で、お高く止まっているようなひとは、いかにも初期のイネスのような人が多いです。仕事に生きていて、いつもイライラして、優しくなくて、現地の中流、下流階級の人たちを下に見て横柄な態度を取る。現地の友達なんていなくて、同じような駐在とつるんではドラッグをやっている。います。たくさん、います。

そんな娘を心配してルーマニアまで来たお父さんは、ギャグが寒すぎるにしてもいいお父さんだなと思いました。

ルーマニアにある経済格差はひどいものだと聞いたことあります。石油ビジネスはもはやEUの中でドイツなどの大国に吸収されていて、現地の人たちの蓄えにはならない。あくまでもビジネスのことしか頭にない娘に「本当に人間か?」と言い、現地の人とすぐに仲良くなるお父さんはとても優しい人でした。そういう教訓があった映画だと思います。

映像としては、お父さんの可視性が気になりました。最初、お父さんとして出てきて、途中からはトニ・エルドマンという他人として出てきます。最後のパーティーのシーンでは着ぐるみを着ていたため、最後まではっきり中身が誰かは分かりませんでした。どんどん視聴者の目に見えなくなっていくお父さんとは対照的に、どんどん(感情的に)人間らしくなっていく娘といった演出でした。そのバランスが、スッと入ってきて気持ち良かった、良い演出だったと思います。歌うシーンはマジで良かったですね。

人がいい映画だったと思います。社会格差や、資本主義的に凝り固まってしまう悲しさを、親子愛や人の優しさを通じて解していく優しい映画だったと思います。へんに美化されたり、道徳の教科書みたいな安っぽさも無くて、好きでした。パーティーのシーンからは、笑っては泣いて、心にじんとくる映画でした。この映画がヨーロッパで流行ったというのはとても良いなと思いました。
浜