塚本

わたしは、ダニエル・ブレイクの塚本のレビュー・感想・評価

3.8
とりあえず今年(まだ1月ですが…)の暫定ベスト作品。

舞台はイギリスの北東部に位置する、ニューカッスル。
ダニエル・ブレイクは、長年大工を生業に生きてきたのですが長い介護の末、妻を喪い、還暦を目前にして心臓病を患い、職を失ってしまいます。やむなく国の援助を求め福祉事務所を訪れるも、煩雑、というより複雑怪奇な手続きと、ドクターストップがかかっているというのになぜか就労不可の認定が下りぬ理不尽さの前に、生活も逼迫していきます…。

かつてのイギリスは福祉国家と呼ばれ「ゆりかごから墓場まで」と例えられるような最低限の生活が保障されていましたが、当時保守党のキャメロン政権は、世界金融危機による財政赤字を削減すべく、福祉保障制度を見直すという緊縮政策を行いました。
所謂、不正受給を防ぐための審査基準の見直しと、役所職員数の削減に伴う事務処理の効率化です。
グローバリズムの名の下、経済の効率さだけを追求すると、まず最初に削られるのは福祉であるのは自明の理です。
日本に於いても、昨年の2月の小田原市職員による“保護なめんな”ジャンパー事件に象徴されるように、不正受給というものに対する過剰な反応が幅を利かせています。

1%台に過ぎない不正受給が、本来支援を必要とされる弱者の受給をも同じ俎上に乗せて非難の対象となってしまう異常性。

真面目に働き続け、税金をきっちり納め続けた途上にあって、傷つき、あらゆる事どもが上手くいかない時がある。
そんな時に安心を…一時的な避難場所を確保してくれるのが福祉なんだと思う。
我々はそのために税金を納めているんです。
自助努力だけでは最早立ち行かなくなった人に対して、その尊厳すらも奪ってしまう行政のシステム。
福祉を悪しきリベラリズムというイデオロギーとして切り捨てる、個人主義。

…ダニエル・ブレイクさんはシステムに翻弄されつつも、矜持を保ち自らの権利を主張し、困っている人がそこに居れば優しく手を差し伸べる…今の時代に於ける“ドン・キホーテ”なんですね。

彼が、ドン・キホーテに見えてしまう現状こそ異常だと、俺は思うんです。
塚本

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