この作品は、ただ可哀想だと思って観ていられるものではない。
というのか客観的に直視しなければならない問題でもあると思う。
実際に日本でも年金や手当が突然停止したら、どれだけの人が路頭に迷うことになるのだろう。
実際にどれだけの人が給付を必要としていても、当然の権利をもらうことができずに困り果てているのだろう。という不安が頭の中を駆け巡った。
それぐらいに辛く胸が張り裂けそうになるストーリーだった。
子供のために食べるものを我慢して、自分の身を削る仕事をする、貧しいことを理由にいじめられる娘、惨めだと涙をこぼす母親。
これが本当に現実なのかと何度も何度も手を差し伸べたくなった。
そんな彼女らを支えてくれるダニエルブレイクが口数は多くないんだけど、心から優しくて、涙が出るくらいに嬉しかった。
決して何かを求めるわけではなく、大工として部屋を直してあげたり、子供の面倒を見たり、母親を心から励ましてあげたり、ふたりがもうちょっと早く出会ったらよかったのになあと思ってしまいました。
周りの助けてくれる人たちにもわずかばかり気持ちが救われました。
困っている人を助けられない、助けてもらえない孤立した社会のその先に見えるものこそが、本当の地獄であると思う。
そしてこの映画の最大の問題である理解のない行政。
僕も障害があり、手当や年金、ヘルパー制度など福祉とは切っても切り離せない環境にいる。
もしそれらが使えなくなったら、僕の生活や人生、命そのものが破綻することになるのだろう。考えただけでも身震いするほど恐ろしい。
だからこそ僕らは馬鹿げた質問に対しても真摯に従わざるを得ないのだ。
障害の認定をもらうのにも本当に驚くべき質問が飛んでくる。
お金の計算はできますか?ご飯は自分で食べられますか?コミュニケーションはしっかりと取れますか?自分で歩けますか?トイレは自分でできますか?
などこれ以上にいくつもため息が出るレベルの質問が医師でも看護師でもない人からくるのだ。
これをダニエルブレイクのように拒んだり、態度などの印象が悪ければこの制度を使うことはおろか、審査すら通らないだろう。
それどころか制度や申請というものは、非常に分かりづらく、誰かがやり方を教えてくれるものではない。
近年ではオンライン申請も増え、ますます分かりづらさが際立っている。
まるで手数や手間を増やし、その人の気持ちを削ぐように、拒むように申請させないようにしていると悪意を感じることも多い。
そして本当の自分や気持ちを押し殺して、ペコペコと頭を下げなければ、当たり前の権利がもらえないなんて許されてはいけないと思う。
納得できないこと、間違ったことにはNoと言えること、壁に抗議声明を書いたりして、屈しないことも大切だと感じた。
それこそが、一人のダニエルブレイクという人間だし、一人の市民という人権を形成していくと思う。
決して施しが欲しいのではなく、誰もがありのままに生きられる、当たり前の権利を要求しているということを忘れてはならないし、そんなことに引け目を感じなくてもいいという、ラストの言葉に心打たれました。
たとえお金が無くて貧しかったとしてもダニエルブレイクは心だけは決して貧しくはなかった。お金で買えないのもの与え続けられる人になりたいと思える映画でした。