猥雑な背景。くすんだ色合い。定位を良しとしないカメラワーク。らしさ満点の映像で綴られたフィリピン社会の地獄巡り。
貧困の地獄と汚職の地獄は地続きであり、どちらの地獄でもモノを言うのはカネである(たとえそれが汚れたカネであっても、だ)。
最早、摘発された密売人と腐敗しきった警察に差異はない。警察署の裏口から表玄関へと続く動線を反復する両者がそれを象徴している。
幾分かあざとさを感じさせる視覚的戦略が奏功しているかどうかは疑問(上記の動線のくだりもハッキリ言って冗長)だが、スラムの街並みを闊歩するレイエス一家の逞しい姿と、帰らざる日々への想いが胸に去来した瞬間のローサの表情(ジャクリン・ホセが素晴らしい)には誰もが胸を打たれることだろう。
人はどんなに辛い状況でもモノを食わなきゃならんのだ。それでも生きていくために。