andy

セールスマンのandyのネタバレレビュー・内容・結末

セールスマン(2016年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

犯人が悪いのは間違いない、「でも…」と躊躇させられる内容でした。

妻のラナが何者かによって、瀕死の重傷を負わされます。
命に別状はないが、ラナは精神的に参ってしまい塞ぎ込むことも増えました。
夫のエマッドは警察に頼らず、自らの手で犯人探しを行い真実を知ることになります。

日常がちょっとしたボタンのかけ違いで、非日常になってしまう。
私たちの日常が実は非常に脆くて、常に非日常と背中合わせであることに気付かされます。
エマッド・ラナ夫妻を始めとした登場人物は、皆毎日を一生懸命に生きている普通の人々ばかりです。
そんな人々が些細なことがきっかけで被害者、加害者になってしまいます。
そしてこのきっかけは、エマッド、ラナ、犯人それぞれに葛藤を生み出します。
犯人が極悪人であれば、エマッド、ラナは深い葛藤には陥らなかったでしょう。
自分たちは被害者、犯人は加害者という簡単な図式になれば良いのですがそうもならない。
犯人を軟禁して問い詰め、犯人の家庭を破壊するであろう制裁直前までのことをしてしまう。
二人は犯人を鏡として自分たちの中にある残虐性みたいなものと、対峙せざるを得なかったのではないでしょうか。
その中にあって、エマッドは最後の最後で、犯人を赦してしまいます。
犯人への最後の一発の殴打は、復讐と赦しの中で揺れ動いたエマッドの葛藤の象徴だと思います。
赦しを選択したエマッドに対して、安堵を覚えた人は少なくないはずです。

犯人にも妻や結婚を控えた娘がいて、普段は気の良い好好爺でしょう。
魔が刺してしまった事に深い後悔を覚えています。優しい妻と娘、娘婿たちに囲まれ幸せな人生を送っていました。
ラナを襲ったことへの贖罪なのか、お金を置いて部屋を後にしています。
決して根は悪い人間ではないのでしょう。
最後に犯人は危篤状態に陥りました。死んだかどうかはわからないまま映画は終わります。

主要な登場人物全員に肩入れしたくなりました。観ている私たちが、一番葛藤に陥ったのかもしれません。
エマッド、ラナ、犯人、犯人の家族、それぞれの感情移入するとそれぞれの葛藤が味わえるという優れた作品だと思います。
そして人間が不完全である以上、正義と悪を簡単に峻別できないことに改めて気付かされます。

ストーリーはサスペンス風です。
謎解きのきっかけが、これ以上にないぐらいシンプルなカットの中で表現されています。
知る機会も少ないイランの日常生活がよくわかり、とても新鮮でした。

劇中の「セールスマンの死」はまだ観ていませんので、観てみようと思います
この作品とどのような関連があるのか考えてみたいです。
andy

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