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ザ・スチューデントのTSのレビュー・感想・評価

ザ・スチューデント(2016年製作の映画)
3.8
【現代世界になじまない原理主義】80点
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監督:キリル・セレブレンニコフ
製作国:ロシア
ジャンル:ドラマ
収録時間:117分
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 これは中々の衝撃映画でした。改めて宗教とは何なのか、と考えさせられましたし、非常に大声では言いづらいのですが、宗教の厄介さを垣間見れた作品でした。これ、ユダヤ教徒やキリスト教徒が見たらかなりの問題作になるのではないでしょうか。簡単にいうと、キリスト教原理主義の青年が、聖書に反することに対してどんどん対抗していくというもの。原理主義というのは難しい考え方です。なぜなら、イスラームであれキリスト教であれ、それを生み出した預言者は今から1500年近く前、2000年前の人物であるため、流石にそのままの物差しでいくと意見がぶつかりあうことでしょう。例えば、学校の授業で進化論の講義をしているのに、聖書ではそんなこと書いていないと言い放ち、猿の着ぐるみをきて教室内を大暴れするなんて、言いづらいですが正気の沙汰ではありません。上記のことは氷山の一角に過ぎず、主人公ヴェーニャは、いわゆる「ドン引き」されることを次々に行なっていきます。

 僕は聖書や神話にはあまり詳しくありませんが、これでもかというくらい、聖書や福音書の引用が出てきます。もう多すぎて笑ってしまうくらい。いやあ、正直なところこんな知り合いがいたらかなりきついですね。我々全員が聖人なんてことは絶対になく、というか大多数の人間は自分のために生きてるわけであり、こんなペースで絡まれたら煙たがられるだけでしょう。今作は、水泳の授業に入るのをヴェーニャが拒むところから始まるのですが、徐々に彼の思想は過激化していきます。性行為の授業をニンジンで行うとある教師も大概なのですが、それに反抗して全裸になってしまうヴェーニャも恐るべしです。まさにカオスの状況なのですが、実は今作はただただヴェーニャの異常具合を描いただけの映画ではありません。この科学等の授業を行う女性教師が、ユダヤ教徒だからといって、校長をはじめとした教職員に馬鹿にされているのも一つのテーマなのです。学校は保身のことしか考えておらず、どう見ても異常的な行動をしているヴェーニャより、彼女の授業のやり方に教職員達は文句をつけてくるのです。

 まるで救いようのない展開で、見ていてかなり苛立ちが募ります。宗教を軽んじるわけではありませんが、ここまできたら宗教が厄介な存在としか認識できず、世界の数多の紛争や戦争は、やはり宗教による行き過ぎた洗脳から生まれたと思わざるを得ないでしょう。昔、大学の教授が断言していましたが、宗教さえなくなれば争いはほぼなくなるでしょう。と。強ち間違いではないのではないかと思いました。

 科学が優越する現代世界において、宗教という代物は正直なところ肩身が狭くなってきています。しかし、人間は自分に不利なことが起きたら神頼みをしてしまうものです。その人がどこまでその宗教を信仰しているかという問題もありますが、人間の文化に宗教は切っても切れない関係です。だから人間の歴史に戦争はつきものなのだ、と自分で解釈するに至りました。そんなところまで考えさせられる凄まじい映画でした。
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