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東京ウィンドオーケストラのsomaddesignのレビュー・感想・評価

東京ウィンドオーケストラ(2016年製作の映画)
5.0
雄大な自然風景の中の、すごくスケールの小さな勘違いコメディ。
尺も話もコンパクトかつタイト。
何者かのモノマネにすらなりきれない閉塞した自分をちょっとだけ逸脱して
自分が自分であることを誇る系映画として滋味深く良い。

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屋久島の町役場で働く樋口は毎日同じ仕事の繰り返し。
島での暮らしも島の風景にも飽き飽きしながらも、そこから抜け出せずにいた。
ある日町を挙げて著名なオーケストラを島に招きコンサートをするはずが、樋口の手違いでやってきたのは1文字違いのアマチュアオーケストラ。
勘違いで過剰な接待を受けることに戸惑いつつ、なかなか真実を打ち明けられない楽団員たちは、こっそり逃げ出すことにするのだが樋口に見つかってしまう。
事態を取り繕いたい樋口は彼らを「本物」としてステージにあげようとするのだが……

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沖田修一監督「滝を見に行く」、橋口亮輔監督「恋人たち」に続く
松竹ブロードキャスティングオリジナル第三弾。
新鋭・坂下雄一郎監督の商業映画デビュー作。

全編アンジャッシュのコントみたいな勘違いコメディを
表に裏に一本ビシーッと筋通った感じ。
キャラの掘り下げとかご都合主義な展開とか、ツッコミ所は多いものの
欠点に積極的に目をつぶって自分なりにツボを見つけて楽しむが吉。
特に主人公・樋口のぶっきらぼうで無愛想なのに
黒目がちでキュートな一面も覗かせる十面鬼ぶりがよかった。
(個人的に再現ドラマの女王・片岡明日香さんに似てると思う)
直接は描かれないものの、楽団員たちが普段どんな仕事して
どんな生活してるのか、ほんのり透けて見せる程度に抑えるのいい。
それぞれの閉塞感をヘタクソでも音楽に昇華させてるのが伝わってくる。

演奏曲がジョン・フィリップ・スーザでやたら軽快かつ勇ましいのも良くて、力強く感動させたり大団円ムードを作ってくれる。
バルブトロンボーンなんてものがあることも初めて知った!

ヘタクソでも精一杯背伸びして頑張って、
何者でもない人たちが何者かになろうとして、ちょっとだけ突破する映画に見えて、平々凡々な日常に暮らす身に少し勇気をもらえた。
冒頭のセリフがクライマックスを経て、違う響きをもって本編を締めるのもよかった。見終わってからジワジワくる面白味。

たくさん褒めたけど、この勘違いって絶対折衝段階で気がつくはずで
移動のチケット用の人数確認とか、マネジメントや振込先とか
どっかで「あれ?」と思わない主人公はよっぽど抜けた人かと思ってしまうけど、まあそのへんはご愛嬌ってことでスルー。

15本目
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