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デジレのcyphのレビュー・感想・評価

デジレ(1937年製作の映画)
3.9
濱口竜介がベスト言うのも納得 とにかく喋る、そして欲望が人物を動かし関係を混乱させ最後に途方もない奇跡があっけらかんとすべての欲望を飲み込み天に返す、その晴れ晴れとした読後感 ギトリと女主人(この人は3番目の妻 これまたうっとりと美しい瞳よ)との関係が100%固有なものではなく、性癖や経験といった一般性を持つものにしっかり巻き取られながら語られるのがめちゃくちゃ新鮮で面白い 非モテの厄介さって何もかもが初めてなせいでそこにある再現性を見逃して妄信的に興奮のギアを上げていってしまうとこだと思ってるのだけど、デジレははっきりその真逆に立ちつつちゃんと(夢と寝言って快楽天かいみたいな便利装置に無理やり暴かれるというかたちで)女主人への恋心をきっぱりと否定しない(そして否定しないが故にきっぱりと職場を去っていく)ので話が早い上に負けることも知ってて最強で最高!となった

あといつもよう喋るな〜とは思うけど本作のギトリはほんとに息継ぎ迷子で圧巻 ほんとに1,2行の台詞でいいところを延々と体感5分くらい喋る それをじっと見つめ返す女主人の艶やかな牝鹿のような瞳

職場モノとしてもたまにピリッとさせられる台詞があってよかった 「召使いであるわれわれは一日で主人の性格を掴み一週間で主人のすべてを知る、しかしあなた方主人は我々について何も知らない 名字を尋ねるのも退職するときだけだ」その不可逆性、支配・被支配の関係が見る・見られるの関係においてのみ逆転する そこに興奮するデジレの性癖はかなりジェンダーバイアス上の「女」のそれで、さすがのギトリ先生 男女反転の遊び心まで携えられてらっしゃる など思った

あとしょうもないディテールと思いつつ屋敷のみんなの夢がかわいかった 特にいったんデジレに惚れかけてすぐ失恋する太っちょ料理人のおばちゃん、お迎えに来た警官の夫に溺愛されてるのみただけでもニッコリとなるのに夢の中ではしごで迎えに来てもらってハグし合う夢見てるのかわいすぎかいとなった 愛についてずっと話が早くて助かる!
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